第15回 「自分で考えなさいっ!!」


 「家族さがし」の旅は少しずつ進んでいく

 わが家は娘が一人。
 親としての接し方にも、パパとママではビミョ一に違いが出てくる。

 夏休みに入ってすぐのこと。
 7月中は小学校のグランドに集まってのラジオ体操がある。
 町会主催の行事であるから、別に行っても行かなくても艮い。強制ではない。しかし、そういう類(たぐい)の行事にはめっぽう乗り気でヤル気マンマンのパパ。
 「さっ、明日から夏休み。もう2年生になったんだからしゃきーっとしなきゃね。朝は6時に起きて、タンバリン(愛犬の名前)のお散歩がてらラジオ体操に行くんだよ。わかったね、6時起きだよ、6時!!」
 「ふぁ〜〜い……」 とヤル気なさそうな生返事の愛娘。

 あんのじょう。明日から休みだと気がユルんでしまい、夜10時すぎまでテレビを見たりベッドの上ではしゃいでいる。不安的中。翌朝6時。目覚まし時計のけたたましい電子音とともにとび起きるパパとタンバリンを尻目に、枕にしがみついて熟睡のわが娘。微動だにしない。
 「起きるよ。リーちゃん6時だよ。ラジオ休操行きますよ!」 と猫なで声のパパ。
 「ふぅ〜〜ん。ほにゃあ…。むうぅん……」 と意識不明。
 さすがにかちんときて、怒るパパ。
 「だから昨日早く寝なさいって言ったでしょうが 夏休みだからってダラダラしてちゃだめじゃないの!! しゃきーっと起きなさいっ」 けっこう大きな声を出したら、目を覚ましたのはママのほう。
 「朝早くからうるさいわねー。まだ寝てるじゃないの。行きたきゃ一人でラジオ体操に行ってきなさいよ。寝かしておきなさいな!!」
 ・・・・・・
 その一言でピクリと動いたわが娘は、枕をはなしてそのままママの背中にピッタリ張りついちゃったよ、両手両足を絡ませて……。2対1でパパの負け。

 結局、はしゃぐタンバリンといっしょに出かけるハメとなり、しゃくにさわるから力いっぱいラジオ体操で汗を流して帰宅したのであった。すでに起きていたママは、ちょっと悪いことしたかしら、ってな調子で、
 「リーちゃん明日からはパパといっしょにラジオ体操に行ってあげなきゃね!!」 と髪の毛をなでながらさとすのであった。

 

 夏休みの季節には 親子がそれぞれ成長する

 それから数日後。
 毎朝うれしそうに早起きしてラジオ体操に出かけるパパと娘。帰ってきたら、台所で朝ごはんの準備をしているママ。ママが叫ぶ。
 「リーちゃーん。2年生になったんだからお手伝いしなさーい」
 「はーい!!」 と素直に返事。それを横で聞きながら、ソファにどかっと座ってカルピスを飲むパパ。リビングからちょこまかと台所に走って行ってうろうろする娘。
 「ねぇ、ママー……何お手伝いすればいいのぉ〜」
 「……」

 一瞬間をおいて、そしてピシャリと言い切るママ。
 「自分で考えなさいっ!!」
 おおぉぉぉ、とその迫力に怖じ気づくパパ。とうぜん、娘は直立不動。
 「何をすれば良いか、自分で考えてお手伝いしなさい」 と追い打ちをかけるもんだから、ますますビビる愛娘。その緊張感を確認してから優しく話し始めるママ。

 「何をお手伝いしたら良いか。どうすればよろこんでもらえるか。その場の空気を読んで自分で考えなさい。言われて行動するのは小学校2年生じゃありません。今、ここで、何をしたら良いのかをいつも自分で考えなさい。わかりましたか!!」
 「ハイ!!」 と直立不動で返事。そして、「えーと、えーと……」 とつぶやきながら、ぞうきんをしぼって床をふいたり、ふきんをしぼってテーブルをふいたり、そして冷蔵庫を開けておしんこやお茶を出してきたり……と八面六臂の大活躍。

 そのかいがいしい姿をながめながら「自分で考えるのよ、自分で!!」 とダメ押ししながらパパを見つめるママ。そう。(あんたもソファに寝そべっていないで自分で考えてお手伝いしなさい!!)という無言の圧力。その圧倒的な目の力におののいて、あわててソファからとび起きて台所に走っていくパパなのであった。

 パパとママ、それぞれに長所と短所がある。時間にに厳しく、きちんとしないと気がすまないパパ。その場の空気を読むことに長けていて天才肌のママ。その両方の顔色をうかがいながらも、少しずつ自分らしさを発揮し始めた娘。親子3人の「家族さがし」の旅は、一歩ずつ前進するのであった。
 夏休みは、パパもママも、娘といっしょに成長する季節なのかもしれない。


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