「朝日新聞」 平成18年12月22日掲載
虐待で子どもが死亡する事件が後を絶たない。
これ以上の悲劇を防ぐために、何をなすべきか。

「児童虐待どう防ぐ」

「児童虐待防止法見直し勉強会」幹事 馳浩

 

 04年中に児童虐待で子どもが亡くなった53件のうち、実に3割を超える17件で児童相談所がかかわっていた。児童相談所が関与しても子どもを救えない現状をどう打開するのか。私たちが超党派の勉強会で進めている児童虐待防止法見直しの議論の焦点は、この一点に尽きる。

 まず問題なのは、児童虐待が疑われたので児童相談所の職員が立ち入り調査をしようとしたが、保護者に拒まれるケース。また、食事を与えないなどのネグレクトの場合には、虐待の疑いの確認が難しく、そもそも立ち入りに至らずに結果として手遅れになるケースが多々あることだ。

 その対策として、虐待が疑われる保護者に対して、児童相談所が「呼び出し勧告」を出し、さらには都道府県知事が「呼び出し命令」を出す制度の新設を提案したい。

 保護者が命令に応じない場合は、虐待のおそれがあると見なして、児童相談所職員が立ち入り調査をする。そして、立ち入り調査が拒否されれば、警察が刑事事件として令状により立ち入るという仕組みにして、警察が関与する際のルールを明示するのである。

 現行法でも児童相談所が警察に援助を求める規定はあるが、実際には児童相談所側は二の足を踏みがちだ。04年に児童虐待防止法が改正されたとき、「警察官が裁判所の令状なしに強制的に立ち入るのは憲法35条に定められた住居不可侵の原則に反するおそれがある」として、警察の強制立ち入りを定めた規定が見送られた経緯もある。

 警察が前面に出るのには私も反対だ。立ち入り調査はあくまで福祉的な面が主で、警察権力は従であるべきだ。それを担保しつつ、警察を積極的に活用することが「呼び出し命令」新設の本意だ。

 次に、児童相談所による立ち入り調査の目的だ。現行法では「児童の安全確認」となっているが、それだけでは不十分だ。経済的な背景があるのか、それとも子育ての不安からなのか。あるいは子どもに発達障害があって、それが虐待の原因なのか。そういった「調査・分析」を法的義務として加えて親に対する指導、支援に生かしたい。

 三つ目は、親権の取り扱いの問題だ。社会が保護者による虐待から子どもを守るという観点から、一時保護にきちんと取り組むという意味で、親権の一部停止・一時停止という措置を盛り込んでもいいのではないだろうか。

 そうなると避けて通れないのが、家庭裁判所の関与の問題だ。児童を一時保護する際に親権を制限することまで考えると、家裁の令状を得るところまで踏み込んだほうがいいのかもしれない。

 他方、法律の見直しを待たずに、すぐ取り組むべき課題も多い。秋田県大仙市で4歳児が亡くなった事件では、母親が転居した際に市の担当部局の間で引き継ぎが不十分だった。児童相談所、市町村、病院、警察など関係機関の連絡協議会はすでに7割方の地域でできているが、100%の設置を急ぎ、連絡ミスが悲劇を招く事態は二度とないようにしなければならない。

 また、地域社会が健在だといわれる中小都市や郡部でも重大事件が続く状況は放置できない。それらの地域では児童相談所の配置が手薄になりがちだ。三位一体改革で市町村が福祉の分野で果たす役割が大きくなっていることもあり、市町村が担当部署に専門職員を増やすなどして児童虐待防止の前面に出ることも必要になってくるだろう。   (聞き手・大野博)


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