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馳 浩 衆議院議員 永田町通信 144
 

『妻の手紙』

 永田町の政局には、流れがある。
 誰が、どこで、どういう発言をしたか。
 それは意図的なこともあれば、予期せぬ一言から派生することも、ある。
 今回の消費税政局。どう転がるか?
 野田総理は、政治生命をかける、不退転、今国会中に採決、そう遠くないうちに決断の時期が来る、と、悲壮なまでの覚悟。
 ところが、当の民主党内はどうかといえば、
 「マニフェスト違反」
 「増税の前にやるべきことがある」
 「デフレ脱却」
 などと、いったいどちらが野党なのかわからないほど、反対のボルテージが上がっていた。
 オイオイ、増税派を公言する野田さんを代表選で選んだのは、あなたたちでしょうが、と、つい外野席からつっこみを入れてみたくなるような気分だった。

 そしてクライマックスは突然、訪れた。
 ちょうど、民自公の三党協議がまとまるかどうかの瀬戸際をむかえた6月13日水曜日。
 週刊文春のゲラ刷りが永田町に出廻った。
 それは、小沢一郎さんの奥さまが、岩手県の古い後援者に宛てた私信だった。
 たった一通の手紙に、これほどまでの衝撃を与えられたことは、かつてなかった。
 その内容をかいつまんで言えば、
 「人間 小沢一郎の否定」
 「政治家 小沢一郎の否定」と、断言することができよう。
 愛人の発覚、隠し子、夫婦関係の破たん。
 ……ワイドショーのようなここまでの内輪話しだけなら「ま、そういうこともありましょうか…」と、見すごすこともできよう。
 しかし。

 昨年の3月11日の大震災、津波、原発事故のときに、小沢さんが取った言動だけは、とても看過できない。
 いちはやく放射能汚染の情報を知りうることができた小沢さんは、外出を控え、水や塩を買い込み、なんと、挙げ句の果には東京から逃げ出したというのだ。
 本来ならば、政治家の先頭に立って自分の選挙区に戻り、岩手の皆様に寄りそい、勇気づけてあげなければならない立場の者が、我れ先にと情報を仕入れ、とっとと逃げ出すとは、言語道断。
 そして、この事実が、離婚したとは言え、夫人から語られたことの衝撃が大きかった。
 代議士の妻。
 そういう職業があってもよいのではないかと思うくらい、衆議院議員の妻の心労は絶えない。私なんぞ、臆面もなく「子を育て 妻をいたわり 親守ろう」と、地元のポスターのキャプションに大書しているが、家族に対する申し訳なさ、とりわけ妻に対しては本当に申し訳なく思っている。

 小沢さんがご夫人から失格のラク印を押されてしまったのには、積み重なる不満があったのだろうし、さもありなん、と同情する。
 その中でも、3・11の下りは、やはり決定的。私の中においてすら、田中角栄先生の真近で薫陶を受けた政治家、小沢一郎に対する期待と尊敬の念は大きかった。
 しかし、奥様の手紙を一読し、それは幻想であったのだ、と、失望を禁じ得ない。
 一時は百名をゆうに超えていた小沢チルドレンにとっても、同様のこと。
 「本当に、命をかけて、この人についていってよいのだろうか?」と、いう疑念を抱かせてしまった。
 この疑念こそが、一夜にして政局を動かしてしまったようなのだ。

 折しも。
 民自公三党協議はヤマ場を迎えてこう着状態にあったが、最後は実にスンナリと、合意文書に実務者がサインした。
 社会保障と税の一体改革という、野田政権の、いや、国政の最重要課題について、大きな決断が下されたのだ。
 後は、三党の、党内手続きのみ。
 公明党は組織政党であり、トップや支援団体が方針を決めれば、ゆるぎなく団結する。
 自民党もオープンな手続きで全議員参加の平場の議論をする。異論も出されるが、最後は、谷垣総裁に一任。
 党略よりも国益優先。
 「さて、与党民主党よ、どうする?」

 マスコミも含め、国民の視線は、反対を明言する小沢一郎さんに注がれていた。
 その緊張感の頂点のタイミングで週刊文春に発表された、夫人の手記。
 この一発で、小沢さんは息の根を止められたようなものだ。
 民主党増税反対派の動きも、小沢チルドレンの動きも、この手記が世に出されたあとは、次第にしぼんでいってしまったし。
 たった一通の妻の手紙。
 小沢さんにとって、それは宿命でもあろうし、自業自得なのであろう。


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