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馳 浩 衆議院議員 永田町通信 119
 

『障碍者』

 漢字は表意文字。
 ハングルやローマ字などの表音文字とはちがう。
 一文字一文字に、成り立ちの意味がある。
 だからこそ、漢字を使った単語や熟語には、それ相当の意義が内在している。
 そのことがあまり政治の世界で議論されることはほとんどなかった。
 しかし、今年の6月は、世間の注目が文化審議会に集まる。
 文化審議会で常用漢字表の見直しを進めており、国語分科会の中にある漢字小委員会において、どの漢字を採択するか、しないかの議論が深まっているからだ。
 文化審は6月に文部科学大臣に答申し、1981年以来となる常用漢字の見直しが年内に告示されるからだ。
 このクライマックス目前。 私は相次いで川端文科相と長妻厚労相に国会質問を仕掛けた。
 テーマは、「障がい者」か、「障害者」か、「障碍者」か、だ。
 仮名交じり文字の障がい者は、日本文化をないがしろにする表記方法であり、私は反対だ。
 しかし、現在内閣府には「障がい者制度改革推進本部」が設置され、政策推進の議論を、当事者も交じえて精力的に展開している。
 「害」という漢字に否定的な負のイメージが強いので、「障がい者」との表記にしたのだと云う。 でも、それは本質から逸れた対応だ。
 玉川大学の中田幸司准教授にも確認し、語源を調べてみた。

 「害」とは?
 「害とは利の反なり」(韓非子)とあり、「スラリと進んで切れるのを利といい、停滞して塞がり止まるを害という」(藤堂明保、漢字語源辞典)とある。 また「頭にかぶりものをつけたさまより、かさ、おおう意を表した。 蓋の原字。 のち、原義はすたれて、そこなう意に用いる」(新字源)とある。 さらに、「宀はおおうの意。 口はいのりの意。 主は刀剣の意。 祈りの言葉を切り刻み、それをふさぐさまから、わざわい、さまたげの意味を表す。 そこなう、傷つける、殺すという意。」
 ここまで調べてみて、私は改めて障害者に対して害という字をあてることは、やっぱり不適切であるとの確信を持った。
 だからといって、平仮名を使って仮名交じり文字にしてしまうことは、本末転倒。
 では、どういう漢字を使った方がよいか?

 そこで現在、漢字小委員会や障がい者制度改革推進本部の中で検討されているのが、碍という漢字だ。 これまた調べてみた。
 「碍」とは?
 「そもそも碍の字は礙の俗字」(康煕字典)
 つまり、原字は礙であるので、語源を調べてみた。
 礙のつくり「疑」は、「人が思いまようさまにかたどる」(鎌田正、米山寅太郎『漢語林』)意味をもち、「人が立ち止まって振り返る姿」(藤堂明保「漢字語源辞典」)を示します。 「大漢和辞典」には「とどまる(止)」とあり、石へんがつくことによって、「石を前にして人が立ちつくし、思いまようさま」から「さまたげる、さえぎる」という意味になります。

 以上の語源についての説明を両大臣にした上で、私はこう主張した。
 「障害者の存在は、社会に害を与えているのでしょうか? むしろ、社会環境の不備(バリアフリー)をただし、政策の到らなさを抜本的に修正して行こうとする政治の力強い意志が必要です。 礙(碍)という字を常用漢字に採択し、障碍者と表記し、障碍者制度改革元年とし、国民の意識転換を促すべきです。 法律用語や公文書にも障碍者と表記すべきです。 石、というのは、先入観や固定観念であり、その社会生活におけるさまたげ、ハードルを目前にして思い悩んでいるのが、まさしく障碍者の置かれている現状です。 政権交代した今が、まさに社会全体にバリアフリーを実現するその時ではありませんか?」

 この質問に、川端文科相は検討を約束し、長妻厚労相も一考を要すると答弁いただいた。
 実は、障がい者制度改革推進本部のメンバーに、両大臣とも主要閣僚として参加しているのだ。 その責任は重い !!
 「障がい者という言葉自体、他の言葉に言い換えるべき! チャレンジド、とか?!」
 という意見もあるが、それも現実から目を逸らす考え。
 文化審議会の意見にも、
 「政府の障がい者制度改革推進本部が障害の表記を検討しており、結果によってはあらためる」と明記されている。
 たかが漢字一文字。 されど一文字。
 名は体を表す。
 障がい者より、障害者より、障碍者。
 日本文化の伝統を守り、発展させる上でも、碍という字を常用漢字に採択すべきである。


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