Apple Town


馳 浩 衆議院議員 永田町通信 110
 

『営業活動』

 世にドブ板とも言う。
 地べたをはいつくばって歩くように、支援者のお宅を1軒1軒訪問してまわる活動のことだ。
 永田町では、営業活動とも呼ぶ。
 まさしく、営業活動の成果が個人の成績にはね返る。 それも当選か、落選か。
 天国か、地獄か。 そんな強迫観念が夢にまであらわれて、夜中にがばっと跳び起きたりすることもある、しょっちゅう。
 8月18日の公示日を過ぎたら、選挙活動は法律に従って制限される。
 だから、公示日までに、後援会名簿を頼りにして、いかに確実な営業成果をつみ重ねておくかに全てがかかっている。

 とは言うものの、営業活動には、いろんなエピソードもつきもの。
 ここにいくつかそのユニークなドラマを記しておきたい。 ドラマとはいえ、もちろん筋書きなど、ない。

 「ピンポーン。 ご免下さい。 はせ浩です。 ごあいさつにうかがいました。」
 ……玄関先の常識その1。 決して長い文章を使ってはならない。 ハキハキと、短文で、用件だけを相手に伝える。
 「おーぅ、どこのハセや?!」
 「自由民主党のはせ浩です!」
 「ジミントウのはせか! いらんわ!」
 ……とインタフォン越しに怒鳴られても、決してキレてはならない。
 いかに好印象を残して立ち去るかがポイントである。 我々は1票のない支持者をいかに増やすかも勝負の分かれ目であるのだから、
 「申し訳ございません。 それではポストにパンフレットだけ入れておきます。 よろしければご覧下さい。 ありがとうございました!!」
 と、心からの感謝を申し上げて、インタフォンに向かっておじぎする、深々と。
 別に誰が見ているからと意識しておじぎするわけではない。 お忙しいであろうひとときを、僕の勝手に押したインタフォンのためにお使いいただいてありがとうございます、との念を込めてお辞儀するのである。

 

 玄関には3種類ある。
 1つは、はき物の出ていない玄関。
 1つは、はき物をそろえてある玄関。
 そしてもう1つは、はき物だけではなく、散らかっている玄関。
 その3種類の玄関に立ち入った瞬間に、家人の対応ぶりも比例してそうなるであろうことは100%ピタリと当たる。 不思議なほど。

 小中高校の同級生や、星稜高校で国語教師をしていた時代の教え子にバッタリ会うこともある。 昔話しがはずむ。
 「おー、白髪ふえたなぁ!」
 「ハセもやろ。 坊主頭やからわからんだけ。 48才にもなりゃ、腹は出るし、白髪は増えるし、血糖値も高くなるわいや!!」
 と、いきなり健康診断の数値のけなし合いがはじまったりする。 血圧とか乳酸値とか!!
 教え子は素直になつかしい。
 「あー、ハセ先生や。 な〜ん変わらんね!」
 と、かつての初々しかった女子高生に、その時と何ら変わらない笑顔で握手を求められると、疲れた身体にファイトが湧いてくる。

 「先生! 自民党はだちゃかんけど、先生だけは信じてるよ!」
 などと言われると、その信頼し切った物言いに、背筋がピリッとする。 人間、心底から他人に「信じてるよ!」と言われると、その言葉を裏切るまいと、やはり腹の底から熱くなる。 立候補できることに誇りを感じる一瞬。

 犬には、たまにかまれる。
 たいてい、いきなりドアを開けておどろかせた時だ。 本気のかみつき方ではないので、ヒザを曲げて目線を合わせると、次第に犬も静かになる。 そのコツも身についてきた。
 かまれてあわてると、余計にかまれる。

 

 後援者名簿のお宅なのに、いきなり自民党や麻生太郎首相の悪口を延々と言われることもある。 こういう時はじっと目を見て「そうですね。 申し訳ありません」と、うなずき続ける。 反論すると待ってましたとばかり、悪口が罵詈雑言にエスカレートする。 長くても30分おつき合いすれば、言い過ぎたと気がつくのか、「でも、馳さんは応援しとるんよ!」と、オチが着く。
 自民党員であるからこそ、マスコミ報道を見て、言わずにはおれないようだ。 その熱く政治に期待する心情は、よくわかる。

 営業活動って、自分の当選のためだと、まだ右も左もわからない頃は信じていた。
 でも、国会議員を14年間経験させていただいた今ならば、ハッキリと言えることがある。
 職業も、社会的立場も、考え方も違う多くの人たちの輪の中に入り、和を以って貴しと為す心持ちがなければ、政治家にはなってはならない、と。
 政治家らしくない政治家こそ、常に時代が求める政治家像ではなかろうか?!


戻る