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永田町通信 103
 

『成人年齢?』

 本会議場の最後尾を歩いていると、呼びとめられた。
 「チョット、はせさん!」
 声をさがすと、中山太郎代議士。
 ミスター憲法と称される重鎮。
 「はっ! な、何でしょうか!」

 少々緊張して直立不動、気をつけの姿勢。
 「あのね。 例の件ね。 私はいつでもあなたの部会に出て説明しますから。 ぜひ声をかけてくださいね。」
 と、おだやかににこやかに、そうは言うものの、ぜひ、の一言に威厳を含ませて強調。
 「はい、わかりました。もちろんです!!」

 例の件とは、憲法改正国民投票法に由来する成人年齢引き下げ問題のことだ。
 あなたの部会、とは、私が部会長をつとめている文部科学部会のこと。
 どうして成人年齢と文部科学部会が関わりあるのか?
 どうしてそこに、ミスター憲法こと中山太郎先生が憂慮しているのか。
 事情はこうだ。

 今から2年前。
 国会で自公民賛成のもとで、憲法改正国民投票法が成立した。
 いよいよ、憲法改正の道に明りがさした。
 その法律では、投票年齢が18才以上とされた。
 そこで。
 法治国家の大黒柱である、憲法改正の投票年齢を18才以上と規定したのだから、国民生活の基礎を定義する民法の成人年齢も18才とすべきではないかと、議論が当然起きた。
 「民法で規定する成人年齢を18才とすべきかどうか!」
 との法相の諮問に対し、法制審議会が出した中間報告は、なんと、両論併記。
 つまり、成人年齢引き下げについての見解を求めたのに対し、専門家は結論を出せずに先送りしたのだ。
 そして、あろうことか引き下げに慎重な最大の理由として、教育を持ち出して来た。
 これに中山太郎先生は、激怒したのだ。
 もちろん、文部科学部会長の私も、違った意味でカチンと来た。

 中山先生の激怒の理由は、
 「我々は、成人年齢18才に引き下げのためにどういう課題をクリアすべきかと法制審に問いかけたハズだ。 それなのに、法務省が間に入ってどう操作したのか定かではないが、諮問の内容は、引き下げするか否か、となっているではないか。 こういう問い掛けでは、両論併記の答えが出てくるのは当然。 ちょっと法務省はピントがずれているんじゃないか。 国会議員同士が与野党で議論をつみ重ねた上で、憲法改正国民投票法案を立法府で成立させたんですヨ。 それを受けて、民法の成人年齢引き下げ議論に入ったんです。 それを、引き下げるか否かという諮問におきかえるとは、そもそも法務省は民法改正に反対なんでしょ!!」
 とまぁ、怒り心頭。

 私の怒りというのは、微妙に趣旨が違う。
 「民法での成人年齢18才引き下げ慎重派の意見として、・親の同意なしに取引などができる契約年齢も下がるデメリット ・親権に服さなくなるので虐待などの不当な行為から解放されるメリット ・教育現場に混乱を起こす ・高校生や大学生は誰も望んでいないなどの意見を出してきた。 これでは、そもそも日本の教育が十分に機能していないと表明しているようなものだ。 どうして法務省は事前に教育内容や教育現場の意見を、文部科学省に聴取もしないでこういう中間報告を発表するのか?! 反対のための意見集約をしているんじゃないか!!」
 と、事前説明に来た法務省の審議官に怒りをぶつけた。

 

 そういうプロセスがあって、中山先生と私とで、急拠作戦会議を行った。
 「成人年齢18才引き下げについては、国民教育の課題がクリアされることが重要であることは間違いありません。 年が明けて通常国会がはじまったら、文部科学部会でこれまでの憲法改正に向けての議論を整理して、若い議員さんにも理解してもらうようにしましょう。 その時は、ぜひとも憲法改正議論の与野党の座長でもある中山先生が出席されて、一席ぶっぱなして下さい。」

 「もちろんです。 こんな大切な問題を霞が関の官僚に変質させられてたまるもんですか! せっかく自公民で合意を得て前進させたんですからね。 憲法改正は、国民の代表である国会議員が、責任を持たなければなりません。」
 ……国民投票は、2010年(来年)の施行までに民法などの成人年齢が見直されるまでは、投票年齢を20才以上にすると定めている。
 国会は定額給付金政局にゆれて、マスコミも大騒ぎしている。
 でも、もっと大切な、国家のカタチを決める議論もあるのだということを、忘れてはならない。


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