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永田町通信 97
 

『ホラ、ひろし!!』

 「ホラ、ひろし、時間。 起きんかいね!!」
 「ふぁ〜い……」
 「ホラ、ひろし、秘書さん来とるがいね!!」
 「わかっとる、って!!」
 「わかっとるがやったら、早よしまっしま!!」
 「……いじっかしいなぁ……」
 「なんやてーーー!!」
 「いえ、何でもありません!!」
 と、まぁ、私と母の朝のやりとりである。

 昨年の秋からずっと国会が続いていたが、ようやく閉会となった。
 閉会中は選挙区の金沢に張り付き。 とうぜん、毎日実家に泊まっているので、いやおうなしに母と顔を合わせることに。 母は75才。
 8年前に父が他界したので、以来、一人暮らし。 しかし、毎週末は私が東京から帰ってくるし、国会閉会中はずっと同居。
 退職するまで40年近く専売公社に勤めていた母は、私に負けず劣らず几帳面である。 はからずも政治家になってしまった息子が可愛いい?がゆえか、甘い顔は見せない。 私のことをいまだに小学生あつかいだ。 朝早くから会合に出かけ、夜は遅くに帰ってくる息子を、容赦なく叱りつけるのが生きがいみたいな様子でもある。

 「ホラ、ひろし、布団片付けまっしま!!」
 「洗濯物は、まとめて出すまっしや!!」
 「クーラーつけっぱなしにして寝たら、風邪ひくがいね!! 電気代はろとるがお母さんやぞ。 あんたも省エネに気をつけなさい。」
 「ホラ、また水を出しっぱなしにして、歯をみがいとる。 マメにとめまっしま、ぱなしさん。」
 「玄関にいくつもクツを出しまさんな、みっともない。 使わないクツはすぐにゲタ箱に入れておきなさい!!」
  ……とまぁ、本当にもう、いったいどこからそんなに注意する言葉が出てくるのかと思うくらい、マシンガンはぶっぱなされる。

 しかし、長年の同居生活にて要領をこころえている私は、気のない返事をしたり、あいづちを打ったり、目を見ながら深くうなずいて恭順の意を示したりして、決っして逆らったり口ごたえしたりはしない。
 もし、一言でも口ごたえしたならば、それこそ百言くらいはね返ってくるのは目に見えているし、私も今さら反抗期でもない。
 母の思うようにさせてあげた方が、ストレスがたまらないだろうし、いつも一人でいるのだから、息子が帰って来たら、嬉しくてアレコレと話しかけたい気持ちもよくわかる。

 リビングとなりの和室が私の寝室兼仕事部屋。 そのトビラ一つへだてたすぐそこが母の居場所。 そこでテレビを観たり、新聞を読んだり、ご飯を食べたり、長電話をしたりしながら一日の大半を過ごしている。
 時折り、さみしいのか一人暮らしのせいなのか、テレビニュースのキャスターに向かって話しかけたり、飼っている金魚や、インコにも話しかけている。 まるでお客様がいらっしゃっていて、トークが盛り上がっているのではないかと錯覚するほど、一人会話は自然な姿。 よっぽど誰かと話しをしていたいんだろうなと思われるので、息子相手に話しをする楽しみを奪ったりはしない。

 後期高齢者医療制度のスタートした4月15日の天引き日は、これまた凄い剣幕だった。
 「ひろし、あんた、もう自民党に入れんげんしね!! 見まっしま、コレ、年金から天引きやがいね!!」
 と、鬼の形相で差し出す通知書。 もう自民党に一票入れない宣言するとは、こりゃ物騒な発言。 差し出された通知書の数字を確認してみる。
 すると……
 「あれ、お母さん。 コレ、前回より保険料安くなっとるがいね、1,000円以上も。 良かったがいね!!」

 そう、うちの母の保険料は、新制度のシステムの中でみごとに値下がりしているのである。 しかし、毎日みのもんたと会話している(テレビ越しだけど)母からすれば、自民党がやることなすこと全て、悪の権化のような印象が強くインプットされており、私の指摘に対しても素直になれずに反論。

 「だって、そんな細かい文字、お母さん読めんわいね、虫メガネでもないと!!」
  ……そりゃそうだ。
 言われてみれば、47才のこの私ですら、老眼でもないけれど通知書の文字は小さすぎてイライラしてしまうほどだ。

 母と話していると小言が多くてイラつくことも多い。 でも、あまりにも自然体で、感情をストレートに外に出す母と接していると、これこそ家族なんだと思う。
 外に出て「国会議員の母」として頭を下げまくっている母を見ているので、玄関を一歩入ったら、今のままでいてほしい。
 「ホラ、ひろし、もう寝なさい。 明日の朝も早いがやろ!!」 と、気をつかわせることも、親孝行(かな?)。


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