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永田町通信 93
 

味つけは?

 女性の集いを金沢市で企画した。
 選挙区の政治活動は、ともすると、企業や団体を対象の中心としがちであり、男中心の政治論議が展開される。
 これでは、台所感覚は政治に反映されない。
 それで、年に1度は女性限定の政策勉強会を企画しはじめて早や3年。
 これまで登場いただいた講師は、福田康夫さん、麻生太郎さん。 いずれも個性際立つ魅力で好評だった。 今回は伊吹文明幹事長。

 こういう集会を企画するときは、県議・市議・後援団体や、企業を通じてキメ細かく動員をお願いする。
 会場となるホテルの準備の都合もこれあり、お声がけをすることによって、政治意識を高めていただきたいとの狙いもあり、と同時に、新規後援会入会者を募るという、本音もある。

 今回は500名の目標を揚げて、地元秘書軍団に動員計画をお願いした。
 選挙があるかどうかもわからない時節にもかかわらず、休日の午後に500名の女性を金沢市中心部のホテルに動員することは、かなり至難の業である。 ましてや女性。 お出かけの準備も大変である。

 ところが。
 嬉しい悲鳴。 動員計画をはるかに上回る、800名(実数)が参加して下さったのだ。
 声がけが話題を呼んで、口コミで噂が広がり、せっかくだから買い物や、お食事も兼ねて政治家の話しを聴こうかしら、と大勢の参加者に来ていただけた。
 ありがたい。
 ホテル始まって以来の人数ということで、貸しテーブルだけでは足りず、臨時イス席や、別室も用意し、立見まで出た。

 少々お疲れ気味で金沢駅に到着した伊吹幹事長も、熱気あふれる会場内を見渡してビックリ。
 がぜん気合いが入った。
 さすが政治家。
 ねじれ国会方程式をテーマに、衆参多数党の違う国会運営のむずかしさを、わかりやすく、(与党+野党)×世論=国民生活と解き明かした。
 小むずかしい政治用語や永田町住民にしかわからない国会用語を使わずに、平易なことばでの解説は大好評だった。

 30分の講演後、残り20分は私とのトーク。
 ここからこそが、伊吹さんの本領発揮。

 「ところで幹事長、ご自分で台所に立たれるとか?! どんなお料理をされるのですか? 先月には、いぶき亭というお料理エッセイも出版されましたよね!!」 と、話をふると、キラリと目が輝いた。

 「昨夜は京都の自宅だったんですよ。 女房がいなかったので、夜遅くに仕事から戻って一人で作りました。 春菊があったので、まず氷水につけてシャキッとさせて、サラダにしました。 それから缶詰めのシチューがあったので、ちょいと一工夫しました!!」
 「どうやって?」

 「フライパンでオリーブオイルを熱し、玉ネギ4分の1をみじん切りにして、アメ色になるまで炒めるんです。 頃合いをみてシチューと混ぜてササッと煮て、はい出来上がり!」
 「何んで玉ネギなんですか?」

 「そんなこともわからないの? 私の料理は貴方のプロレス流とは違うんですよ。 玉ネギを炒めると甘くなるし香りが立つでしょ。 それがまた缶詰めシチューの美味しさを引き立てるんですよー!!」 と、ここで女性陣から大拍手。

 手の込んだお料理よりも、いかに冷蔵庫の中にある食材を、一工夫して、品よく、美味しく、短時間に食卓に並べるのかが、女性陣の感心の的であったようだ。 そうかと言えば、金沢に特有の食材についてのウンチクをひとくさり。
 「このこ、って知ってる?」
 「このこ……? くちこなら知ってますが。」

 「そう、最近ではくちことも言うし、その形からしてバチコとも言います。 ナマコの卵巣を天日干ししたもので、能登のナマコを使った、このこは最高級品ですね。 熱燗にピッタリです。 料亭の先付けにも出るけど、小指の先ほどしかありませんが、かめばかむほど口の中に、芳醇な味わいが広がりますね!!」 とまぁ、聞いているだけで、うっとりしてしまいそうな表現で、あらま、女性陣は、政治の解説の時より身を乗り出して来ちゃったよ!!

 「それにしても、どうしてそんなに、お料理が好きなんですか?」
 「そりゃね、私は京都の商家のせがれだからですよ。 ぜいたくを嫌い、質素を旨として、子どもの頃から教育しつけされましたから。 地の食材を旬に味わうということが、最高の家族の幸せでしたから。 それに各家庭なりの味付けをするということが、本当の愛情だということなんですよ。」
 ……なるほど。

 少々お説教じみてはいるけれど、伊吹さんが、どうしていつも物事の本筋にこだわるかがわかったような気がした。
 だからこそ、ねじれ国会の味付けにも、伊吹流が発揮されているのだろう。


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