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永田町通信 92
 

『ある日突然』

 ねじれ国会は、ある日突然何かが起こる。
 あ〜る日 突然♪ 二人 だま〜るの〜♪
 と、かつて素敵なデュエット曲が流行したが、そういえば大連立についても、福田総理と小沢代表の口は重い。
 何も語らなくなったということは、逆に憶測を呼ぶ。

 また、ある日突然に党首会談が浮上してくるのではないかと、永田町は戦々恐々だ。
 黙りこくったまま、何も語ろうとしないトップ二人にかわって雄弁なのは、伊吹文明幹事長だ。
 とりわけ「つなぎ法案」をめぐる駆け引きは、伊吹株の銘柄をトップ高まで引き上げた。

 つなぎの背景はこうだ。
 平成20年度予算案は、衆議院で成立後、30日経てば参議院で議決せずとも自然成立する。
 これは憲法に規定された国会のルール。

 しかし。
 歳入関連法案(税制関連法案)については、衆院と参院の両院で可決しないと成立しない。
 参院で多数を占める野党の反対で否決された場合は、衆院の3分の2以上の多数で再議決できる。
 ただし、60日ルールがある。
 衆院で議決後、参院で60日間採決しなければ、否決したものとみなして、衆院で再議決できるとした憲法第59条のルールだ。

 万が一、民主党が多数を占める参院で60日ルールを使われたらどうなるか?
 予算は30日以内に成立するのに、歳入法案が成立しないことになり、暫定税率の延長もできず、歳入欠陥が生じることになる。
 するとどうなるか?

 ガソリンは1リットル25円安くなる。
 軽油は1リットル17円安くなる。
 輸入牛肉や小麦は高くなる。
 オフショア(外国投資金融)市場の税制軽減措置はなくなり、投資が冷え込む。

 つまり、国家や自治体財政の歳入欠陥を引き起こすと同時に、物価の乱高下を招き、日本経済の国際的な信用を失墜させることになる。
 そのことをわかっていながら、民主党の山岡国会対策委員長は、新年のTV番組でこう吠えていた。
 「歳入法案は年度内(三月中)に成立させない。 暫定税率の延長はさせない。 原油高であり、国民生活のためにガソリン25円引き下げる。 ガソリン国会で四月解散に追い込む!!」   と。

 これは困る。 政府与党が解散総選挙を恐れて困るのではない。
 予算の裏打ちの財源を確保できず、物価が乱高下し、日本経済が混乱し、国民生活が困るのである。
 だから、伊吹さんは、水面下で、周到な根回しをした上で、つなぎ法案を電光石火で国会に提出したわけだ。

 つなぎ法案の内容は簡単だ。
 暫定税率に関する税制法案の延長が、年度内(3月31日まで)に成立しない場合、自動的に5月31日までの2ヶ月間延長するという内容だ。
 民主党の山岡さんが「暫定税率を廃止に追い込む。延長させない。
 解散に追い込む」と公言している以上、混乱回避のために準備した議員立法であり、伊吹さんの秘策でもあった。

 最終的に、河野洋平衆院議長、そして江田五月参院議長両者のあっせん、仲裁により、衆院本会議直前につなぎ法案は取り下げられ、四月解散も国民生活の混乱も地方自治体の歳入欠陥も回避された。

 私は、取り下げ直後の幹事長室で、淡々と微笑みを口元にたたえている伊吹幹事長に質問した。
 「大丈夫ですか? 年度内に一定の結論を得るだなんて、民主党が約束守りますかね? あれは鳩山幹事長のやったことで、俺は関係ない、だなんて小沢さんがテーブルひっくり返しませんかね?」
 心配する私をたしなめるように、伊吹さんは腕組みをしながら言った。

 「小沢さんを追い込んじゃだめなんだよ」
 と一言。
 ん?
 確かに、つなぎ法案が成立すれば、ガソリン解散という小沢戦略は木端みじんとなる。
 小沢戦略の息の根を止めないどころか、追い込んじゃだめなんだよ、とはまたこれいかに……。

 私はまだ、この伊吹作戦の全体像は読み切れていない。
 ただし、ある日突然、アノ時小沢さんの息の根を止めなかったことの意味が、浮き彫りになるのかもしれない。
 ねじれ国会には、ある日突然、が多くなりそうである。


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