Apple Town


永田町通信 89
 

『伊吹文明』

 自民党幹事長。
 言わずと知れた政権政党の中枢。
 時には、総理総裁以上の権勢を誇る。

 偉大なるイエスマンと自他ともに認めた武部勤さんのようなタイプもいれば、寝技師のような森喜朗さんタイプもいた。民主党代表の小沢一郎さんも、かつては自民党最年少の剛腕型幹事長だった。
 その小沢さんを向こうにまわして、ねじれ国会という前代未聞の国政前線を仕切っているのが伊吹文明。

 「ぶんめいって呼ぶんですか?」
 「イヤイヤ、ふみあき、ですよ。 いやだったなぁ、いつもぶんめい、ぶんめいって呼ばれるのは。 ご存知のように戸籍には読み仮名をふらなくても良いですからね、どっちでもいいんですけど。 でも、本当はふみあきっていうんですよ。」
 「誰が名前つけたんですか?」
 「さぁて、誰でしょう。 両親ですかね。 私のおじいちゃんがね、ぶんじろうって言うんですよ。 漢字で書くと明治の治ね!」
 とまぁ、こうした何気ない会話でもいちいち筋道立てるもんだから、口さがない民主党議員からは「説教魔」という、ありがたくないニックネームをちょうだいしている。

 文部科学大臣当時、ことごとく国会答弁で野党議員を論破するものだから、質問に困った野党議員に、
 「普通、大臣ってのは答弁に困って立ち住生するもんだけど、質問する側が困って追求できなくなるなんて、伊吹文科大臣が初めてですよ!」  と発言させて、与野党双方から大笑いが起きたこともある。

 その説教癖、いやもとい、説明好きは永田町でも並ぶものがないほどで、福田首相から幹事長に起用された当初はサプライズ人事とされたが、内部では、さもありなん、と得心を呼ぶ人事でもあった。

 この私は、その伊吹文明幹事長のそばで、雑務を担当している副幹事長である。
 衆議院本会議場近くの第12控え室が自民党幹事長室。
 私は国会対策委員会の動向も担当しているので、平日は毎朝8時には幹事長室に“出勤”し、執務にあたっている。

 伊吹幹事長は、その30分後に出勤して来られ、右から左へと、次々に持ちこまれる日程調整の処理をしたり、いきなり訪問する議員の声に対応したり、各方面に調整のための電話連絡をしている。

 ひと通りあわただしい時間を過ごすと、ご自身の着席スタイルで読書したり目をつぶって沈思黙考に入る。
 その着席スタイルが一風変わっている。 4本足の椅子、その後ろ足2本だけで立ってバランスを取っている。 前足2本は宙に浮いている。
 それだと倒れてしまうのではないかと心配して見ているのだが、ひっくり返ったりしない。 よく見てみると、左ヒザを長机のへりに当てがい、右足のくつ底を長机の筋交いに当てがい、左右のバランス良く立っているのである。 見ていて何とも危なっかしいその姿勢で、5分でも10分でも、からだをかすかに前後にゆすりながら、じっと考え込んでいたり、正面においてあるテレビの国会質疑の様子をチェックしたりしている。

 私は伊吹幹事長のそばにいて、命じられた任務を遂行する立場にあるから、自分からは話しかけない。 しかし、伊吹さんの視界には私の大きなからだが入っているから、時には俳句の話しをしたりする。

 「馳さんはいくつから俳句やってるの?」
 「学生時代からです。 もう25年です。」
 「すごいなぁ、見かけに寄らないね。 私もホラ、こうやって月に1度発行している国会レポートで、下手な俳句を紹介してるんだ。」
 と、おっしゃって見せて下さった10月号が、次の一句。

 神官が 子猫とあそぶ 神無月
 「どう、馳先生の構評は?」 と問われ、
 「子猫って、民主党の事ですか?」 と答えると、はっはっはーと、私の問いには答えないで、大笑いなさった。

 11月号の一句は次のとおり。
 黒き雲 切り裂くごとく 雁わたる
 黒き雲とは、まさしくねじれ国会。 切り裂くごとくとは、大連立構想を含む、党首会談。 わたる雁とは小沢さんの心象か?
 私は伊吹さんが語ろうとしないまでも、何を意図して福田首相の参謀たらんとしているかが、何となく読めて来た。

 一言で言えば、「与野党」、「衆参」、「国会と国民」のバランスを取り、政策実行を果たすことだ。
 その目標のために、敢えて福田総理総裁の通訳を務め、発信者となること。 そのために味付けをすることなのであろう。


戻る