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永田町通信 88
 

『ザ・派閥』

 久しぶりに小泉純一郎元総理が表舞台に表れた。
 福田康夫総理が誕生して2週間後の派閥の総会だ。
 あれほど派閥の弊害を力説して自民党改革を急進的に進めてきた張本人であるだけに、前ぶれもなく、いきなり昼食会場に姿をあらわしたときには、「おおおお〜〜っ」とのどよめきが支配した。

 そして、町村派の実質的なオーナーであり、今や闇将軍(と呼ぶには明朗快活すぎるが)とまで永田町内外から称される森喜朗元総理の演説後、きわめてあいさつ嫌いだった小泉さんがマイクを握ったものだから(それもマスコミが入っている満座で)、二重のサプライズ。
 万人注視の中、語りはじめた。

 「6年ぶりですか、清和会にやって来るのは。 なつかしいですねぇ。 福田赳夫先生が角福戦争の時代にこの赤坂プリンスホテルにお世話になって以来だから、もう福田派から数えると20年以上もここに事務所があるんですよね。」と、いきなり角福戦争を持ち出した。

 町村派は80名いるとはいえ、かつての有名な党内抗争を体験した人なんて数えるほど。 政争史を語ることで伝えたい真意とは何ぞや。
 皆、耳を澄ませて聞き入る。

 「民主党の小沢代表、鳩山幹事長、山岡国対委員長、そして参議院の西岡議運委員長。 この4名はいずれもかつては自民党だった。 それも田中派という主流派だった。 その時、福田派の我々は長らく非主流派だった。 それが、今はどうですか。 民主党がみんな非主流派になったじゃありませんか。 そして福田派は、森〜小泉〜安倍〜福田と4代続けて総理大臣を出し、国政の主流派となりました!!」

 ここで会場内は、ヤンヤヤンヤの喝采。
 ……もし、こんなことを言おうとしているのだったら、こりゃもう、「ザ派閥」政治そのもの。 派閥政治を否定したはずの小泉さんの言いたい本題はそうでないはず。

 目の前の幹部席に満足そうに並んで座っている小泉、森、中川前幹事長、町村官房長官の顔を見ていて、「おごる平家は久しからず」とのことわざがチラリと心の中をよぎって行く。
 しかし、ここから小泉さんはガラリと表情を変えた。 そして、まるで郵政民営化を語っていた時のような目つきで、静かにさとしはじめた。

 「小沢さんも、鳩山さんも、山岡さんも、西岡さんも、皆元々自民党だった。 今、衆参の国会の構成はねじれた関係だ。 お互いに拒否権を持った。 衆議院では与党が3分の2の多数勢力であり、参議院は野党が過半数を握っている。 とりわけ参議院は解散がないわけだから向こう6年間はこのねじれた関係が続くことになる。 衆参でお互いに拒否権を出し合っていては国民の利益となる政治が行われないことになる。 我々は国民の負託にこたえていかなければならない。」

 先程までわきあがっていた会場内もシーンとなった。 迫力がよみがえって来た。

 「話せばわかる!! おたがい、腹を割って、話せばわかる。 それは国民のためだ。 今、康夫さんが総理としてこの難局に立ち向かっているのだから、皆さんも仲間として支えてあげてほしい。」

 なるほど、話せばわかる、って言いたかったのか?! でも、俺には、「こんなに元気になったから、そろそろ活動再開するか。 ことと次第によっちゃあ、小泉新党作って政局のキャスチングボードをにぎっちゃうぞ!!」と、思わせぶりに与野党の幹部、とりわけ、黒幕として影響力を保持している森元総理をけん制しているかのように映った。

 久しぶりに派閥総会に出席。
 マスコミの前でマイクを握る。
 角福戦争を前ふりに使う。
 民主党を非主流派呼ばわり。

 ねじれた関係。
 話せばわかる。
 このいくつかのキーワードと小泉さんの現況を重ね合わせて化学反応を起こすと、ここから戦国時代さながらの政局の行方が垣間見える気がするのである。

 そうは言っても、小泉さんはこうも言った。
 「私が総理大臣の時、しょっちゅう森さんにはアドバイスをいただきました。 しかし、私はほとんどそのアドバイスを聞かなかった。 それでも森さんは、私が困っているときにはいつも支え続けてくれた。 この心の広さ、大きさ、包容力、人間としての魅力。 これが森さんの持ち味だ。 皆さんも、苦しい時に支え合える仲間を大切にすることだ。」

 ……福田赳夫先生の書生として政治家の礎を作り、そして長らく非主流派としての福田派に身を置いていた小泉さん。
 もしかして、田中派の流れとは違った意味での「ザ派閥」の権化が小泉さんなのかもしれない。


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