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永田町通信 83
 

『大島コンピューター』

 5月18日、本会議で教育再生三法が採決された。

 昨年の臨時国会で全面的に教育基本法が改正されたことに続く、「教育再生」を最重要課題に挙げる安倍内閣としては大きな成果。
 もちろん、日教組の支援する民主党も対案を提出し、存在感を高めた。

 しかし、物理的に暴力的に強硬に抵抗することはなく、粛々と採決に応じた。
 安倍内閣の看板法案であり、対案も用意していた民主党にしては、意外?とあっさりと採決に応じたような気もしないではない。
 その交渉のウラ舞台を一皮むいてのぞいてみると、精緻な大島コンピューターの存在がある。検証してみよう。

 教育再生特別委員会の委員長は保利耕輔。
 郵政造反組として離党していたが、復党組としてはきわめて異例の抜擢。
 当然、元文部大臣。そして、改正教育基本法の与党座長を永らくつとめていた。

 この保利委員長のもとで与党側の筆頭理事をつとめたのが大島理森。
 元国会対策委員長、元農水相、元文部大臣と、百戦錬磨の国対族親分だ。
 この大島コンピューターの活躍が凄かった。

 まず、特別委員会の立ち上げスタート時。
 審議入りを引き伸ばしたいのか、民主党のメンバーがなかなか提出されない。
 メンバー表がなければ、特別委員会を片肺飛行させることになるから、困る。

 そしたら、民主党だけポッカリ穴の開いた特別委員会のメンバー表を持って、単身、民主党の国会対策委員会の控え室に乗り込んだのだ!!このあたりの肝っ玉はさすが。
 「大島でーす。民主党さーん、そろそろメンバー決めて下さい。なんなら、私が選んであげますから、鉛筆ください!!」
 と、勝手にめぼしい民主党の文教族の名前を記入し始める大島さん。

 「ちょ、ちょっと待ってよ。ちゃんとメンバー決めて出しますから!!本当にもう、大島さんたら……」
 と、民主党国会対策委員長の高木義明さん。

 こういうはったり?!芸当で周囲を大島ペースに持ち込むことができるのが、人徳??
 この迫力に負けじと民主党が出して来た野党筆頭理事が、元国会対策委員長にして、次期代表候補でもある野田佳彦さん。エース登場だ。
 丁丁発止の交渉が二人の間で始まるのだがここからこそが、大島コンピューター本領発揮。

 特別委員会に常時出席が求められる大臣は、伊吹文科相、塩崎官房長官、菅総務相。
 しかし、塩崎さんも菅さんも、それぞれが他に重要法案を担当しており、日程はキツキツ。イラク特措法も平行審議中だし。
 衆参の本会議や委員会に次々呼ばれることになってしまい、なかなか教育再生特別委員会にハリツケておくわけにはいかない。
 そこで、だ。

 大島さんは、真っ白なカレンダーに、日程を几帳面な字でびっしりと書き込み始めた。
 衆参の本会議は、定例日がある。
 衆議院は、火、木、金の午後一時から。
 参議院は、月、水、金の午前十時から。
 常任委員会にしても、定例日がある。

 それらの定例日に、塩崎官房長官と菅総務相が出席を要求される日程を割り出した。
 そして、3大臣が答弁者としてそろわないときは、参考人質疑(3回)や地方公聴会(2回、4ヶ所)や中央公聴会を次々と当てはめて行ったのである。
 もちろん、野党の要求する質問時間は最優先にあてはめ、(とうぜん、与党の質問時間は減らされることになるが、法案を成立させるために背に腹はかえられない)、総計57時間の審議時間を確保してしまったのである。

 この57という数字は、教育基本法改正のために昨年の臨時国会に費やした総時間とピッタリ符合し、さすがに民主党の野田筆頭も強硬に反対するわけにはいかなくなったのである。
 総括質疑、一般質疑、参考人質疑、地方公聴会、学校現場視察(四ヶ所)、中央公聴会、そして安倍総理出席の上でのしめくくり総括質疑。総計57時間あまり。
 これでもか、と要求する野党側からの難題に、これでもかこれでもかと要求を消化する大島コンピューター。
 加えて、「オイ、馳くん。民主党も対案を出しているのだから、ていねいに民主党案に対して質問しなさい。」
 と、民主党案に配慮することによって、両案に反対する社民党や共産党を野党共闘から分断するという高等戦術を駆使。

 かくして、さしたる暴力的な抵抗もなく採決がなされたという次第。
 これぞ国会対策、これぞ野党交渉。
 硬軟おりまぜた大島コンピューターなればこそのみごとな成果であった。


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