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永田町通信 82
 

『児童虐待の闇』

 第82回 児童虐待の闇

 ここに驚くべき数字がある。
 平成17年、約34000件もの児童虐待の通報があった。

 当然、児童の安全確認のために児童相談所の職員が家庭訪問をする努力義務がある。
 家庭訪問を門前払いされたり対応が無反応だったりすると、立ち入り調査に切りかえることもできる。
 立ち入り調査には、警察の援助を求めることもできるようになっている。

 その立ち入り調査を執行したのは207件なのだが、そのうち執行できなかったケースは20件。
 そのうち、保護者の拒否、抵抗によるものが8件となっていた。
 ちなみに、児童虐待が原因の死亡例は57人であった。

 申し上げておくが、児童相談所は困難な事案については、くり返し何度も家庭訪問をしている。
 膨大なエネルギーを費やしているにもかかわらず、保護者の強い拒否や抵抗や無反応にあうと、お手挙げ状態なのだ。

 これらの数字を「たかが」と読むか「こんなにも」と読むかだ。
 政治のアプローチとしては当然「こんなにも」ひどい状態なのか、である。

 理不尽にも保護者から虐待を受けている児童を一人でも救いたい。救わなければならない。なぜ虐待してしまうのかの原因も分析し、保護者の相談に応じ、指導もしなければならない。家庭という密室で行われている虐待の予防や早期発見、早期対応は待ったなしなのである。

 実は、2004年にも児童虐待防止法を改正したのだが、その時に積み残した問題が2点あった。3年以内に見直すことになっていた。
 一つは実効性のある立ち入り調査。
 もう一つは親権の制限。
 この2点を中心に、超党派の勉強会を立ち上げて見直しに着手したのが昨年11月。

 以来半年。関係省庁や関係団体、学者やマスコミも同席のもと、計13回にわたる議論を経て、ようやく改正の内容がまとまった。
 もちろん、改正だけすれば良いというものではなく、現行法の運用でできることや予算措置が必要なものは、いち早く着手することも視野に入れての見直しをした。

 まず、実効性のある立ち入り調査だ。
・通報があった際の安全確認は、努力義務ではなく、義務化することとした。

・何度家庭訪問しても拒否や無反応や抵抗する場合、出頭要求できる制度を導入するとした。

・立ち入り調査すらも拒否され、無反応や抵抗したら、再度出頭要求できるとした。

・再出頭要求まで拒否、無反応、抵抗するとなると、いよいよ児童相談所の職員は強制執行に入る。
それまでの経過を記録し、家庭内に児童が存在することの資料と、関係者の具体的証言も資料とし、他の方法では虐待の疑いを確 認できない場合、裁判所に令状を求め、安全確認のために解錠して臨検できるようにした。

・臨検には警察官の同行を求めることができる。

 以上の制度の創設により、立ち入り調査に実効性(強制力)を持たせ、とりわけネグレクト(育児放棄)に対応できるようにした。
 もう一つの親権制限はやっかいだった。
 なぜならば、民法に規定されている親権についての規定を見直すことは、家族制度に踏み込むことであり、法制審議会の大仕事につながることになるわけだからだ。

 よって、民法を見直す作業は今後の検討課題としながらも、接近禁止を含む、保護者に対する面会、通信の制限を強化することとした。DV防止法やストーカー防止法を参考にすることとしたわけである。

 詳しく言うと、こうだ。
 虐待が原因で児童相談所に一時保護していたり、児童養護施設などに同意入所、強制入所させている児童に対して、児童へのつきまといや、はいかいなどの行為を制限できるようにしたのである。でないと、保護者の姿を見ただけで子どもたちがおびえてしまったり、自宅に連れ戻されて虐待が再発し、外部からは解決の糸口を見出せなくなってしまうからである。

 本当なら、こんな法律に頼らなくても良い世の中であることが望ましいに決まっている。
 しかし、常軌を逸する虐待事件は増えるばかりであり、こういう強制的な手法を取らざるをえない実態があることを理解してほしい。

 また、子育てが母親の孤独な「孤育て」になってしまい、相談相手もなくパニック状態で虐待が常態化していることも見逃せない。
 ぜひとも、児童虐待の深層に潜む「何か」に目を向けてほしい。
 こんな法律なんて必要のない世の中にしていかなければならない。
 我が子を虐待し、殺すことが社会問題となるような日本は、美しい国ではない。 


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