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永田町通信 81
 

『政治新幹線!』

 第81回 政治新幹線!

 「新幹線の予算なんてね、もらうもんじゃないんですよ、ブン捕ってくるものなんですよ。」

 「我々の先輩はね、苦労に苦労を重ね、知恵に知恵を出し合って整備新幹線の財源を確保するという努力をして来たのですよ。 この私だって、毎日のように当時の公共事業の神様だった故金丸信さんを説得して、最後の最後にようやく理解してもらったものですよ!!」

 最初の発言は、津島雄二代議士。
 後者は、森喜朗元総理。

 時は2月16日の朝。
 所は自民党本部704号室。
 会議は「整備新幹線等鉄道調査会・整備新幹線建設促進議員連盟合同会議」である。

 津島さんは、自民党内の組織である調査会の会長。
 森さんは。議員連盟の会長。

 この、自民党を代表する二人のベテラン代議士の本音の発言こそが、我が国の新幹線の整備の来し方、行く末を極端に表現している。
 現在、開通を待ちわびている新幹線の整備区間は5つである。

・北海道新幹線(新青森〜新函館間)
・東北新幹線(八戸〜新青森間)
・北陸新幹線(長野〜金沢〈白山総合車両基地〉)(福井駅部)
・九州新幹線(鹿児島ルート、博多〜新八代間)
・九州新幹線(長崎ルート、武雄温泉〜諌早間)

これは、平成16年12月16日に政府与党が申し合わせをした約束事項である。
あれから2年半。

 平成19年度予算の参議院での審議が順調に進み、年度内成立が確実視されるこの段階において、いよいよ政府与党申し合わせの進み具合を確認したうえで、今後をどうしようか、との会議が開かれたわけである。

 さっそく、整備新幹線の沿線国会議員が我先に挙手をし、地元の声を代弁し始めた。
◎A議員(福井県)
 「福井県だけがポツンと整備されても新幹線はやって来ない。白山総合車両基地より西へと新規に着工してもらいたい。」

◎B議員(福井県)
 「福井駅から敦賀駅まで工事実施計画を申請している。整備区間へ格上げしてほしい。」

◎C議員(石川県)
 「並行在来線や枝線への経営テコ入れのため、何らかの財政支援をしてほしい!!」

◎D議員(長崎県)
 「佐賀県の鹿島市長が、JR長崎本線の経営分離に反対し、長崎ルート建設に反対している。これについては佐賀県の古川知事も、並行在来線の経営分離による影響への配慮を表明している。一自治体が反対しているから全ての工事が進まないというのも疑問だ。政府与党申し合わせを見直す際の論点にしてほしい。」

◎E議員(北海道)
 「新函館から札幌までを整備区間に格上げをしてほしい。格差解消を果たすためにも社会資本整備の光を北海道にも当ててほしい。」
 などなど。
 5線それぞれの地域事情を熱く代弁するのであった。

 ひと通り沿線国会議員の魂の叫び?!に耳を傾けながら私は思った。
 整備新幹線は法律に従って整備されてきた。
 当初は全額国費で建設費がまかなわれてきたが、国家財政の苦しい状況の中で、地元自治体の負担も求めるようになってきた。
 地方自治体としても、都市間格差解消のためにと、苦しいやりくりをしながら負担金を支払って来ている。
 新幹線は国家プロジェクトだったはずなのに、という恨み言を心の奥底にしまいながら。

 そういう歴史を振り返りながら合同会議の参加者に目を向けると、愕然とする。
 参加しているのは未整備の沿線議員だけだからだ。
 すでに出来上がり、開通し、大きな経済波及効果という恩恵を受けている大都市や既設沿線議員が誰も来ていないのだ。
 東海道新幹線、山陽新幹線、上越新幹線、長野新幹線、東北新幹線の八戸まで、秋田や山形のミニ新幹線……あなた方は、自分達だけ良ければそれで良いのですか? と大きな声で文句を叫びたいところだ。

 そんな空気が充満した中で、最後に津島調査会長が言明した。
 「具体的財源を確保し、政府与党申し合わせの見直しをするための検討委員会を立ち上げます。」と。
 どよめきと安堵感が、そして新たな戦闘意欲が会議内を支配した。
 やっぱり、整備新幹線は、政治新幹線なのだ!!(了)


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