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永田町通信 77
 

『つっ込みが甘いよ』

 「石井さん、つっ込みが甘いよー! もっときびしく攻め込まないと。役人の思いあがりだよ、ヤラセ質問なんて!!」
 と、後ろの委員席から野次をとばす馳浩。

 いつもは攻撃される野次になれっこの、共産党のベテラン、石井郁子先生は、私が大声を張り上げるたびに後ろをふり向いてあいまいに苦笑いするのであった。

 質問を終えて私の座席までやってきた石井さんは、
 「そーぉ? やっぱりつっ込み甘かった?」
 と、遠慮がちに聞いてくる。

 「甘いよー。あれじゃ役人の体質を暴けないよ。俺がその資料もってたら、もっと詰めて詰めて言いのがれできないほど事実関係を確認した上でウミを出し切るけどなー。石井さん、人が好いから、つめ切れないなー。」
 と、共産党相手に講釈をたれる。

 「そっかー、やっぱり甘いか。こんどはもっとがんばるね。」
 と、俺のお母さんほど年がはなれているにもかかわらずまじめに考え込んでいる石井さん。共産党はイヤだけど石井さんは好き、と評されるお人柄だ。

 この石井さんの甘い?つっ込みに端を発したのがタウンミーティングやらせ質問事件だ。
 小泉内閣から継承している「国民との直接対話」がうたい文句のタウンミーティング。

 このやらせ質問が発覚したきっかけは、八戸市で行われた小坂憲次文部科学大臣(当時)をメインにすえての教育改革をテーマとしたタウンミーティング。共産党が教育基本法特別委員会に提示した資料とは、内閣府と地元八戸市教育委員会との担当者同士のやり取り。

 資料では、教育基本法改正に賛成の主旨での質問を、参加者に依頼してほしいとの文面があったのだ。
 「役所の内部資料を持ち出すなんて、共産党に密告する役人がいるのか! けしからん!!」
 と、いう身体の大きな元総理大臣の野次はまぁ、それはそれとして、与野党席の誰もが息をのんでその指令書を見つめた。

 「こりゃ、国民との直接対話とか言いながら、事前にシナリオ準備してるじゃねぇか。けしからん!!」
 「ヤラセじゃねぇか。役人は国民をバカにしてるのか。」
 と、野次がとぶのは何と自民党席からがほとんど。そう。信用していたのに、裏切られてしまった時の、アノ気分だ。

 「俺はこんな話、知らねぇぞ。」
 と、今は大臣を辞めて一委員として審議に参加している小坂憲次先生までが青筋立てて怒っている。
 このヤラセ問題のウラを取ってみると、こういうことだ。

 教育改革タウンミーティング担当の内閣府のお役人さまは、何と文部科学省からの出向者。この出向者が、古巣の本省と連絡を取り合い、
 「せっかく大臣が行くのだから、円滑に議事進行できるように、質問者を仕込んでおいて下さいね。せっかくだから、基本法に賛成の質問をさせてね。大臣は前向きに答弁するから!!」
 と、お膳立てをしたわけである。

 さらに調べてみると、参加者まで教育関係者に動員をかけていて、小うるさい組合の参加希望者はしめ出していたようなのである。
 何なんだこれは、いったい!!
 国民をなめるにもほどがある。
 大臣をバカにするのもいい加減にしろ!!
 だ。こういうのを猿芝居と言うのだろう。

 そもそもタウンミーティングは、首相や各大臣と国民との直接対話じゃないか。
 議事が円滑に進行しなくても、そういう修羅場を収めて説得するだけの力量をこそ、大臣たる者は持っていなければならないのではないか!! それを、お役人さまが、何から何までシナリオ通りに仕事をこなして、それで私の仕事はつつがなくきれいに終了して一丁上がり、っていう感覚は、全く民主主義からかけはなれている。こんなことが、まかり通っていたのであるならば、小泉内閣の真価すら疑われてしまうではないか!!

 共産党や社民党がこのヤラセ問題追及の突破口を開き、その流れに民主党も乗っかって、「この問題の決着をはかり、いじめや未履修問題の原因追及もしなければ、教育基本法改正案の採決は応じられない!!」
 と政局に絡め始めたが、それはちょっと無理があった。

 だって、基本法は60年ぶりの理念の改正。ヤラセもいじめも未履修も、常設の文部科学委員会で集中審議を重ね、伊吹文明大臣も徹底して調査すると言明しているのだから、教育基本法改正の成立ストップのためのかけひきに使おうとする野党戦術は、無理があるわけだ。

 それにしても共産党の石井さん。
 人は好いけど質問の着眼点はきびしく本質をついていた。つっ込みは甘かったけどね。自民党もたまにはこういう切り口で国会質問すべきだな。でも自民党に密告してくるお役人はいないけど……。 


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