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永田町通信 72
 

『最大の権力闘争』

 6月15日の夜。 赤坂の料亭「小みや」。
 国会閉会日を翌日に控えた私は、森派の同期生(4回生)とともに宴席を囲んでいた。

 国会が終わりを迎える頃の、派閥の恒例行事である。一献かたむけながら同期生との友情を深め、情報を交換し、そしてその国会での成果を語りあったり反省会をしたり。

 そんな時はいつも森会長か、派閥幹部の先輩が同席され、昔話を披露してくださったり次の選挙に向けての指南をしてくださったりするのだが、今年だけは様相がちがった。
 何と、スペシャルゲストとして安倍晋三官房長官が同席したのである。同席されたもう一人のゲストは尾身幸次元科学技術政策担当大臣。この二人がそろって同席するというのも珍しい。片や飛ぶ鳥を落す勢いのプリンスと、片や51才で初当選して以来、苦労人の8期生。

 それに、尾身先生はもう一方の総裁候補である福田康夫元官房長官とは群馬県の同郷。
 「アレ? 尾身さんはどうするのかな?」
 と、この2人があうんの呼吸で並んで盃を傾け合っているのを見て、私は違和感を覚えたりもした。もしかして安倍派確信犯??

 宴会は安倍さんの都合に合わせて午後八時に開会した。ひとしきり世間話に花が咲いたあと、話題は核心の総裁選に落ち着いて行った。
 「福田さん、どうするんだろうねぇ…」
 と誰かが口火をきると、尾身さんは、
  「宏池会の仕掛けているアジア研究会での講演を昨日断ったらしいんだよね、直前になって。なんでも、総裁候補を順番に呼んで話を聞くのなら、私はふさわしくないから出ないって。いったいどこまでヤル気なんだかわからなくて、森会長にすら言質を与えないらしいよ。…群馬県の後援会も困ってるョ。」
 と困惑してみせた。そして続けて、高市早苗さんにからかい気味にこう問いかけた。

 「ところでお宅はどうなのよ?」
 と。そう。ガチガチの安倍派の高市早苗さんと、ガチガチの福田派の山本拓さんは、おしどり代議士夫婦であり、森派の中でも注目の的。夫婦でありながらも選挙区も政治的言動も応援する総裁候補も別なのだ。

 「うちのダンナは戦意喪失ですよ。ここ数ヶ月、慣れない国会図書館に入り浸っちゃって、福田さんの政策作るんだって張り切ってたのに。カバンなんて資料でパンパンにふくれあがってたんですョ。でも靖国問題でことごとく私に論破されてからは元気なくなっちゃったみたい。おまけに福田先生があぁいう感じだから盛り上げようがないみたい!!」

 「たいへんな奥さんをもらっちゃったなー、山本さんも。それにしても、愛してるの?」
 「あたりまえじゃないですか! 愛してますよー。私は結婚したら一生添いとげる女ですから!!」
 って話は脱線しながらも、総裁選の行方に焦点はしぼられていく。

 当の安倍さんたら、しきりにかかってくる携帯電話を気にしながらも、4回生の懇親会には最後まで席を温め、一人一人の声にていねいにおだやかに耳を傾けていた。
 「馳さん、安倍総裁が誕生したらなかなか逢えなくなるけど、これは、という実現してもらいたい政策はないの?」
 と、けしかける尾身さんをマァマァと制しながらも、安倍さんもまんざらでもなさそうに耳を傾ける仕草をした。私はかねてからの持論を申し上げた。

 「教員給与を一般地方公務員よりも優遇している人材確保法の廃止ですね。」
 と言うと、一瞬安倍さんの目が光った。
 その目を見たとたん、あぁ、安倍さんは真剣に総理を目指しているのだな。国民の目から判断しておかしいと思える政策については議論のマナ板に乗せなきゃなと思っているんだな、と直感した。

 「外にマスコミのカメラがいっぱい張っているから、今夜はそういう(安倍支持)空気が盛り上がったとだけ報告することにしよう!!」
 と尾身先生が仕切ってお開きとなった。

 一夜明けて6月16日金曜日。
 最後の本会議直前の自民党代議士会で、小泉さんは久しぶりに長く演説した。
 「教育基本法も国民投票法も防衛省設置法も共謀罪法も、与野党激突する筋合いの法案ではない。民主党は政権担当能力のある政党だと言われているが、ならば責任をもって成立させなければならない国政の重要課題であるはずだ。今日で国会は終わるが、こういう課題も含めて、我が自民党の総裁選挙が国民的世論を喚起して正々堂々と行なわれるべきだ。総裁選挙こそが、最大の権力闘争。長い夏休みだと思わずに、これは、という闘いをしていただきたい!!」
 と、力強く言い放ち、そしてニヤリと笑った。

 このニヤリ、を、安倍さんや福田さんはどう言う意味に受け取っただろうか!!


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