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永田町通信 71
 

『しっぽをつかませまい』

 通常国会の会期は150日間。毎年1月末に開会される。よって、5月のゴールデンウイークを過ぎるといよいよ後半国会の攻防が深まる。平成18年度の注目の的は、4本の法案。行政改革推進法案、医療制度改革法案、教育基本法改正案、組織的犯罪処罰法案だ。

 与党は、政府案として提出しているので、すみやかに採決、成立をと迫る。
 野党は、審議を尽くせ、まだ不充分だと採決を遅らせたり、審議拒否をしたりすることになる。とりわけ小沢一郎氏が民主党代表に就任してからの国会運営の潮目は大きく変った。

 4月の千葉7区補選で劇的な勝利を収めたことによって、寄り合い所帯であった民主党国会議員に、団結することの意義を植えつけた。と同時に、国民の意識の中に、やっぱり小沢民主党やるじゃないかとの期待感を抱かせた。分かりやすい言葉でいえば、偽メール事件でやる気と自信を失っていた人たちの「寝た子を起こす」原動力となった。

 この小さなやる気が大きな期待と相まって、後半国会の与野党攻防に影響を与えている。その象徴的なイベントが初めての党首討論。小泉純一郎VS小沢一郎。
 後半国会の行方を占ううえでも、「変った」といわれる小沢さんの姿勢を民主党内外に見せる意味でも、何よりも任期の有終の美を飾り、後継総裁選に小泉色を引き継ぐためにも、注目必至の激突であった。

 党首討論の直前、衆議院の厚生労働委員会において、医療制度改革法案の抵抗採決が行なわれた。与党は審議を尽くしたので採決に至ったのは予定通りと主張し、野党は審議不充分として採決に抵抗した。
 こういう不測の事態に至ると野党は国会審議拒否戦術に出るところだが、民主党は党首討論をひかえていることもあり、抗議以上の物理的抵抗をしなかった。小沢さんはさっそく「強行採決だ」と抗議し、野党が望めば審議を尽くしてから採決するものだと諭した?が、小泉さんは、「審議を尽くすことには賛成だ!」 と素っ気なくニヤリと思わせぶりに応じたものだから、まるでキツネとタヌキの化かし合いのような心理戦のスタートとなった。

 永田町の空気は、
 「誰が、どのタイミングで、何を、どの角度から論じたか!」 によってガラリと変わる。そういう観点からすると、小沢さんも小泉さんも、この党首討論で後半国会の主導権を握っておきたいとの意欲アリアリだった。

 続いて小沢さんが持ち出してきたのは、戦後教育とすさんだ社会事件の問題。
 誰の目にも、教育基本法改正案の政府案について問題点をあぶり出し、民主党が提出しようとしている日本国教育基本法のほうがよりましだという印象を植え付けようとの意図が透けてみえた。ここで小泉さんが丁々発止と法律論をやりとりするのか。それとも一般的な教育論で応じるか。法律論に入れば小沢さんペースになる。なぜか。

 政府案成立に至るまで、愛国心や憲法の精神や宗教的情操心や不当な支配の問題で、与党内において大激論が交わされた経緯がある。難産の末に自民公明の両党が政府案に合意したのである。その大激論の一つひとつを小沢さんによってむし返されることは、与党の琴線にふれることになるわけだ。

 さあ、どう出るかと小泉さんの出方に注目していると
 「子供の教育の責任は、親にある!」 と明言し、とうとう持論を演説し始めた。

 小沢さんは、少しイラついたように、
 「小泉さんのおっしゃるのは、家庭教育と社会教育についてであり、私が聞きたかったのは学校教育についてだ。教育行政についての直接的な責任は市町村にあるのに、戦後、文部省が指導や助言というかたちで口を出してきた。そのゆがみは、政府案では是正されていない!」 と、法律論の土俵に乗せようと口調こそ丁寧だが、牙をむき出しにして襲いかかってきた。
  法律論か、教育論か。

 結局、小沢さんの顔も立てて、
 「対案を提出されるということは歓迎する。政府案も、民主党案も、慎重に審議をしていただければ良い。」 と、慎重審議を約束した。どちらが優勢とも判別のつかない、かけ引き満載の党首討論であった。
 小沢さんとすれば、慎重審議を総理が約束したのだから、後半国会で強行採決はさせないぞ、もししたら世論が許さないぞ、との刀を突きつけたつもりだろう。
 小泉総理とすれば、会期延長の権限をフリーハンドで握り得たのだから、後は審議内容次第だな、とホット一息の様子。やっぱり大物同士の論争はカンロクがあって行間を読む深さがある。でも、しっぽをつかませまいとの慎重さが、ちょっと物足りない。(了) 


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