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永田町通信 70
 

『教育基本法改正 異聞』

 4月12日、夕方5時。
 自民党本部704号室は、血走った眼の国会議員の大声がとびかっていた。
 テーマは「教育基本法改正案」について。

 この日、与党協議会において決定した案がいよいよ表面化してきたのであり、その案についての平場の意見交換会。
 会議の正式名称は 「文部科学部会、文教制度調査会合同会議」だ。教育基本法を抜本的に見直し、全面的に改正すべきであるとの議論は、平成12年からあった。

 当時、小渕恵三内閣のもとに「教育改革に関する国民会議」が設置された。戦後の教育問題(受験戦争、いじめや不登校、非行の低年齢化、学力低下、ゆとり教育など)が国民的な課題となる中で、基本法を抜本的に見直し、次代を担う青少年を育成するにあたっての基本的な理念を示し、振興基本計画を策定すべきであるとの提言が出された。

 この提言に従って、平成15年3月には中教審の答申が出され、いよいよ法案化作業に入るはずだった。しかし、以来3年。いまだに条文化作業に入れなかったのはこれいかに。
 それは、自民党と公明党の代表者が改正内容についての詰めの作業を行うはずの協議会と、その下の検討会(通算70回)がなかなか進まなかったことが原因。

 その理由は何か?
 まさしく、論点整理に時間がかかったのである。政府が法案を提出するには、与党の了解が必要。自民公明が一致した内容でウンと言わなければ国会にすら提出できないのは、制度上自明の理。その論点がまとまったということで、ようやく表面化してきた第1回目の会議がこの4月12日なのである。

 与党協議会の中核メンバーであり、文教制度調査会長でもある河村建夫元文部科学大臣が示した主な論点整理に、多くの自民党国会議員がかみついた。

 一、「日本国憲法の精神にのっとり」
 日本国憲法自体が占領軍の精神にのっとっている。自民党の存立基盤である立党精神は、自主憲法の制定である。よって現行の憲法の精神にのっとり、との表現は削除すべきではないか、との意見。

 二、「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」
 これがいわゆる愛国心騒動の落とし所となった表現。これには異論続出。「〜とともに」の前文と後文の関係性があいまい。尊重する他国には北朝鮮も含まれるとしたら納得できない。「態度」ではなく、「心」を養うと書くのが教育基本法の理念ではないか。心を育てずして教育は成り立たない。

 三、「宗教に関する一般的な教養」
 この文言で、現行の宗教教育との違いはどうなるのか。どうして情操心の涵養と書けないのか。

 四、「不当な支配に服することなく」
 不当な支配とは、法律用語として他にあるのか。これは、戦前のかつての軍部のことを指すのか。この文言は戦後、「文部省からの不当な支配」を現場から排除するために教職員団体が根拠としてきた文言。教育の不偏不党は「政治教育」の項目ですでに中立性をうたっており、あえて「教育行政」の項目で書き出す必要はない。不当な支配というならば、むしろ教職員団体こそが「不当な支配」をしているのではないか。不当な文言である。

 ……と、大きくこの4点にしぼって延々1時間半の意見交換がなされた。
 険悪な空気にもなりかけたのだが、与党協議会の座長をつとめた大島理森元文部大臣の、「今日はまだ第1回目。良識ある皆さんのご意見を参考にしながら、これから文部科学省は条文化作業に入ります。与党の方針をお示ししたのが今日の段階。後半国会の日程もありますし、総理や官房長官のお考えもある。それらを勘案しながら、自民党として具体的な改正案を詰めていくことになる。今日のところは、まぁ、時間も時間だから、この辺で。」と、その場の空気を和やかにしてお開きとなった。

 私は、文部科学副大臣。小坂憲次大臣を支える立場として、誰がどのような想いで発言されているのかをその場にいてつぶさに拝聴した。確かに、条文化作業と与党取りまとめの上で国会提出に到るまではまだいくつもの山がひかえていると肌で感じた。しかし、こういう時こそ原点に帰るべきだとの思いにかられた。

 それは、なぜ、今、抜本改正するか、だ。戦後60年。今だからこそ、国民全員が自主的に教育に責任を持たなければならないと痛切に感じる社会状況だからこそ、この改正議論が深められなければならない、ということだ。(了)  


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