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永田町通信 65
 

『大どんでん返し』

 高齢者虐待防止法は、次期通常国会に持ち越されるはずだった。ところが、大どんでん返し。与党幹事長国対委員長会談が行なわれた席でこの話題が取り上げられ、公明党の冬柴幹事長と東国対委員長から、
 「ぜひともこの特別国会中に成立させてほしい。せっかく与党PTで法案を練り上げ、民主党案とも一本化したのだから、この期に及んで自民党内の一部議員の反対で見送りとなるようなことは避けてもらえないか。法案の微修正で済むようならば、もう少し現場に汗をかかせてまとめ上げ、なんとか通すべき。」 との強い申し入れがあったようなのだ。

 そんなことなどつゆ知らずに、すっかりあきらめかけていた私に連絡が届いたのは10月19日の午後。
 衆議院厚生労働委員会の自民党筆頭理事(当時)である長勢甚遠代議士がやって来て、
 「おい、どうする。上からこんな指示がやってきたぞ。こりゃ、まとめるしかしゃあないわな。馳くん、ちゃんとやれよ!!」 や、やれよと言われたって、党内に抱えた異論を解消しなければ、力ずくではとうていできない問題。長勢さんは心配しながら、
 「与党内の状況が変わったんだから、俺からも反対していた木村(義雄代議士)さんに連絡入れておくよ。中身のつめをしておいてくれよな!!」 とのこと。さっそく木村先生のもとに走り、修正に入ることになった。

 一番の心配だったのは、老人福祉施設での高齢者虐待に関わる通報や届け出の問題。
 次から次へと虚偽や妄想や合理的な説明のできる事実に基づかない通報や届け出がなされると、施設経営者は仕事にならないし、風評被害で経営や社会的信頼にまで傷がつきかねない、とのこと。

 「そりゃ、困る!!」 ということで、次のような修正文を木村先生が考え出してくださった。
 通報者への守秘義務摘要除外規定と解雇等の免責規定の条文にある「通報」の文言の下に、かっこ書きで(虚偽及び過失によるものを除く)と入れることにして下さったのだ。

 つまり、嘘や偽りはあたりまえのこと、さらに、たとえ真実でなくても合理的な理由に基づかない通報は、通報者に守秘義務違反や解雇等の責任が問われますよ、ということに。
 これをまとめあげて、次は公明党に修正の了解を得る手続きに入った。

 担当の古尾範子先生の対応は明解だった。
 「馳さん、これ良いですよ。せっかく馳さんが立法作業と修正作業で汗を流してくださったのですから、公明党としても今特別国会でぜひとも成立させるために、この修正文をのみます!!」

 そうとなりゃ、次は民主党での担当である山井和則先生。
 「過失の通報ねぇ…通報に関わる過失ってどんなことだろう…ピンとこないなぁ。虐待事例に通報義務をかけているのに、基準が甘くならないかなぁ…法制局はクリアできる?法制局がOKなら、いいですよ!!」

 「当然法制局にも解釈の確認取りましたよ。通報における過失とは、一般的に合理性のある虐待事実を説明できない状況での通報です。わかりやすく言えば、ちゃんと根拠をもって通報をして下さい、ということです。」

 「わかった!!法制局も了解というのであれば、この修正はのみます。では、これで手続きをして下さい!!」

 この返事を待っていたのだ!!
 自民党、公明党、民主党が一本化されれば、あとは共産党、社民党、国民新党、新党日本、自由連合、新党大地そして無所属の会(郵政造反チーム)に個別に説得に回るだけ。全ての会派に2日間かけて説明に回り、全ての政策担当者に合意をいただく。
 やった! 下ごしらえは終わった!!

 10月25日の早朝の自民党厚生労働部会において、再度審議をはかり、修正文を含めて全員の了承をいただく。
 一週間前に異論を唱えていた木村義雄先生や中村博彦先生は今後は積極的にバックアップの発言をして下さり、これで正式に自民党のお墨付きをいただいたようなもの。

 紆余曲折を経ながらも、大どんでん返しの展開で、ギリギリ11月1日午前中に参議院本会議で、232名全員が賛成して下さってみごと成立!!11月1日とは、特別国会閉会日。まさしく、綱わたりの末に成立させていただいたわけだ。
 参議院本会議場の二階傍聴席でその成立の瞬間を見守っていたら、議場内の自席から、旧知の武見敬三参議院議員がおめでとうの手をふってくれた、小さく。その控え目なおめでとうが、この四年間の苦労をいやしてくれるねぎらいであったことは言うまでもない。

 平成18年の4月から、いよいよ法律に基づいて高齢者虐待防止の施策が始まる。
 今後とも、社会福祉の実態改善を見守りながら、法律の理念を形に変えていきたい。(了) 


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