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永田町通信 64
 

『議員立法の明暗』

 憲法第41条
 「国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関である」
であるならば、国会議員の”特権“の最たるものは、まさしく立法作業である。(決してJRのグリーン車乗り放題や料亭に行くことが特権ではない!!)

 しかし、国会で審議される9割以上は政府提出法案であり、国会議員が自ら作る議員立法は1割に満たない。事務作業が大変なこともあるのだが、政府与党一体の政治制度の現状では、どうしても政府提出法案が優遇され、その処理に国会活動が忙殺されるという現実がある。

 そんな中で、自民党内で4年間もあたため続けてきた議員立法「高齢者虐待防止・養護者支援法」が風前の灯となっている。
 平成14年に南野智恵子参議院議員が検討会をスタート。平成15年には勉強会に格上げして陣内孝雄参議院議員が会長に就任。平成16年には対策予算を編成し、坂口力厚生労働大臣に陳情。

 そして平成17年に、勉強会を議員連盟にさらに格上げし、公明党との与党プロジェクトチーム座長にこの私が就任して、精力的にヒアリングを続けた上で、条文を練り上げた。
 さらに、この10月の特別国会の最中には民主党の対策と一本化作業を行ない、いよいよ国会提出も目前となったその時に、なんと、自民党内から火の手があがってストップがかかってしまった。

 所は厚生労働部会。
 自民党の機関意思決定をする入り口であり、この部会で了承を得られなければ全ての法案も予算も成立しない。
 疑義をうったえたのは、中村博彦参議院議員(比例・老人福祉施設協会の代表でもある)と、木村義雄衆議院議員(前厚生労働副大臣)のおふたり。おふたりともその道のスペシャリストであり、現場の実態に詳しい方々。

 ご指摘は次の一点に集中した。
 「施設内における虐待を、介護保険の対象施設に限定したのはなぜか。高齢者は医療機関にも精神病院にも医療型の療養所にも在籍している。介護型の施設は虐待については管理のあり方も含めて厳しく指導を受けていて、閉鎖命令まである。屋上屋を架すことにはならないのか?!」 ということだ。

 さらにおっしゃるには、
 「居宅サービスのヘルパーによる虐待事例はどう扱えば良いのか。また、認知症の高齢者による、妄想、虚言に基づく届出もあり得るし、職員による悪意のこもった通報が相次ぐ可能性もある。そうすると、施設の経営者にとっては風説の流布による経営圧迫や、人事への介入も考えられる。法律の運用について、立案者は責任をもてるのでしょうか。厚生労働省や市町村の現場に運用をまかせてうまくいくのでしょうか?!」 との心配が相次いだ。

 結局、部会での議論はまとまらず、了承を得ることはかなわなかった。
 立法作業を担当した私からは、誠意をもってお答えしたのであるが、不安がぬぐい去れない以上は、部会に差しとめしておくしかない。

 田村憲久部会長の判断により、
 「それでは、今日この場で取りまとめができる状況ではないので、今後、部会のもとにワーキングチームを設けることにして、来年の通常国会を目指して議論を深めましょう。今日いただいた質問にお答えし、法案の修正も含めて今後より良い案となるように作業を進めることをお約束して、終わります!!」 と仕切ってくださった。

 その午後、木村先生からも中村先生からも前向きの激励をいただいた。
 「馳さんのまじめな姿勢は良くわかっているんだ。でも、法律としてできあがって現場で運用されるとなると不安も大きいってことですよ。高齢者虐待はけしからんことだし、根拠法として必要だという地方自治体の意見もわかる。だから、施設における虐待案件をどう扱うかも含めて、部会で慎重に議論を深めたら良いですよ、協力するから!!」 とのこと。

 議員立法のむずかしさは、実は、立案者が想定していることと、現場での不安をいかに条文で埋め合わせるかにある、ということだ。運用を役所に任せてしまう以上、その不安をできる限りぬぐい去る立法過程が必要なわけだ。
 なんとか、多くの方に理解を深めていただいて、賛同を得て、成立させるために努力したい。(了)


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