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永田町通信 63
 

『重複立候補は、おかしい』

 「そう、おかしいんだよ……」 とうとう公衆の面前で、森喜朗前総理は明言した。
 衆議院総選挙の真最中のこと。金沢市中心市街地ド真ン中の香林坊交差点には、3000人をこえる郡集。石川1区2区3区の小選挙区自民党公認候補と、公明党北信越比例単独候補による、合同街頭演説会が催された時のことだ。

 群集の熱気をさらにあおるように、演説トップバッターの私は大声を張り上げた。
 「小選挙区で敗れたのに、惜敗率上位なら比例で復活当選だなんて、衆議院だけで作ったお手盛りの既得権、特権じゃないですか 国民に対して痛みをともなう改革をお願いしますと言っておきながら、自分たちの特権にはダンマリを決め込んで温存しようとする、そんな国会議員を信用することができますか、皆さぁぁぁぁん!!」

 「できなぁぁぁぁいっ!!」 と呼応してくれる群集。合いの手を入れるタイミングもわかっていらっしゃる。
 「だから私は重複立候補を辞退したのです。特権に甘んじる政治家に国政や改革を語る資格はなぁぁいっ!!」
 「そうだー!!」 の掛け声。

 さらに演説はエスカレートする。
 「そもそもこの制度ができたのは12年前。リクルート事件などの相次ぐ政治家の不祥事で政治不信が高まったからです。政治や選挙に金がかからないようにしようとの大合唱が起きて猫もしゃくしも政治改革を叫びました。」
 「俺もおぼえてるゾー」 の掛け声。

 「本来ならば倫理の問題として政治家改革となるはずが、なぜか選挙制度改革となっていったのです。これが中選挙区制から小選挙区制への移行でした。その理屈は、政党が母体となって選挙を闘い、政策で競い合おうというものでした。そうすれば派閥政治も必要なくなるし、政治活動や選挙活動にお金がかからなくなるという理想でした。

 小選挙区制にすればイギリスやアメリカのように2大政党時代となり、政策によって候補者が選ばれるようになりますから、政治家による利益誘導型政治もなくなり、国政に緊張感が生まれるという話しでした。」
 「そうだったよなぁ!!」 とため息の合いの手。

 「ところが、その時に制度をいじった政治家は、議席の維持をはかるという本音をむき出しにして、5年間の制度移行期の経過措置を盛り込んだのです。自民党は当事、竹下・中曽根・安倍・宮澤・河本の5大派閥が存在していたため、小選挙区の区割りからあぶれる現職議員を救済する必要がありました。少数野党には死に票が出ることに抗議し、少数意見も国政に反映させるべきだと息まいたのです。その結果、小選挙区単独、比例単独、重複、重複してさらに比例上位優遇という、みごとにお手盛りの4種類の選挙制度ができあがってしまったのですぅぅぅぅ。」
 「なんじゃそりゃ!?」 と怒りの掛け声。

 「本当は5年後には見直して、小選挙区のみか、小選挙区と比例区単独立候補か、一選挙区三人定員の完全中選挙区制にするはずだったんです。でも、5年どころか12年経った今だにお手盛りのママなんです。」
 「なんでやー!!」 のヤジ。

 「なんでか。それは、前回小選挙区で敗れて比例で復活当選した私のようなゾンビ代議士がいるからです」 シーンとする群集3000人。
 「ゾンビ議員がいくらおかしいと言っても説得力がありません。すったもんだ議論しているうちに次の総選挙が近付くと、じゃあ次の選挙後にまた話し合いましょう。なんてことがもう4回もくり返されているんです。どう考えてもこの制度はおかしいんですぅぅ。」
 どっ、と沸きあがりあちこちから「そらそうだ」 「そのとーりぃぃぃ。」 と叫ぶ群集。そして冒頭のシーンの再現となるのである。重複立候補している森先生と目が合ってしまったので私も勢い余って「そうですよネ、森先生!!」 と話しをふってしまったのだが、よく考えるととっても失礼なことなので、

 「……私は他の選挙区のことは申しませんが」 と弁解したら、森先生は苦笑いするし、群集からは「ハセー、弱気になってるゾー」 とヤジがとんだが……。

 でも、やっぱりおかしいのである。重複立候補制度は。
 政治家の覚悟が問われた郵政選挙。
 政治家の政策発信力が問われた郵政選挙。
 政党の決断力が問われた郵政選挙。
 その中核を担う衆議院議員選挙制度として、重複立候補は、やっぱりおかしい。(了)  


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