Apple Town


永田町通信 62
 

『そりゃないよ!!』

 議員立法は時として政局の荒波にもまれてしまう。
 高齢者虐待防止法の与党案が、小泉首相の解散の一声で廃案となってしまったのもその典型。
 平成14年に、参議院の南野智恵子先生(現法相)が始めた私的勉強会に招かれたことから私の闘いが始まった。
 平成12年から介護保険制度が始まり、在宅サービスと施設サービスがスタートした。
 介護保険制度創設の理念は3つあった。

 「増大する社会的入院の解消!」
 「施設介護から在宅介護へ!」
 「世代を超えて支え合う介護負担!」だ。

 ところが、その結果、今まで密室に隠れていた要介護者に対する高齢者虐待が社会問題として表面に出てきたのである。家庭の中にヘルパーさんが入って介護サービスを提供することにより、その家族内の人間関係の複雑さから来るいくつかの虐待事実が白日の下にさらされたわけである。

 南野先生は、こう主張した。
 「実態を調査しましょう。根深い問題であり、プライバシーの侵害も絡むから、傾向を把握してからどのように政治の力で対処できるのか考えましょう!」 ということで、自治体の福祉職員や学者や人権派弁護士や厚生労働省職員やNGO代表らとの勉強会が重ねられた。

 平成15年には南野勉強会が検討会に格上げされて、陣内孝雄元法相を新たに会長に迎えた。
 そして、さらに検討を重ねた成果として、平成16年には高齢者虐待防止対策の政策をまとめ上げ、陣内検討会のメンバーから坂口力厚生労働大臣に提言を直接手渡した。

 とりあえず、これで急場はしのげるかな、と安堵した。しかし、介護の現場の悲惨さはそんな甘っちょろい認識では済まされなかった。
 平成16年後半から、介護疲れや遺産相続や生活困難や人間関係のトラブルが原因とみられる虐待事件が相次ぎ、中には死亡事件もニュースとなるに至った。こういった社会問題には政治も敏感であり、平成17年の通常国会が始まるやいなや、
 「議員立法で高齢者虐待防止法を成立させよう」 との機運が各党から湧き上がった。

 それは、同様の家庭内の虐待防止法案であるDV防止法も児童虐待防止法も超党派の議員が知恵を出し合って作り上げたという実績があったからだ。

 平成16年に改正児童虐待防止法の与野党調整を担当した私は、虐待防止法には精通していた。
 法律の目的、定義付け、国や自治体や事業者の責務、市町村の役割り、早期発見、事実確認、警察の援助、対応方針、虐待者と被虐待者双方への援助、民間支援者との連係などなど、法律事項として盛り込む内容も条文の書きぶりなどもアウトラインは理解していた。

 ただ、児童虐待と違うのは、大人と大人の関係であり、不当な利益の取得(年金や預金の使い込みや、勝手な資産処分)という経済虐待が定義付けられる分、やっかいだということだけだった。そうは言うものの、与野党にわたる人脈に加え、厚生労働省の担当課長や、衆議院法制局の担当課長とも顔見知りであり、調整はうまく進んで一本化し、最終的には委員長提案の議員立法として成立させるはずだった。

 ところがところが、誤算が二つ続いた。
 まずは、民主党の誤算。
 与党は4月中旬に法案を練り上げ、条文まで作ってしまった。

 「いつでも民主党さんの案と内容を調整しますよ。ゆずるところはお互いゆずり合いましょう!!」 という呼びかけに、民主党の担当議員は「お願いします」と言っておきながら
 「やっぱり改正介護保険法が仕上るまで対応できません」 とのつれない返事。

 改正介護保険法が仕上って、さあいよいよと呼びかけたら、今度は
 「やっぱり障害者自立支援法が片付くまで対応できません!」 との冷たい返事。もめてもめて障害者自立支援法が衆議院を通過し、いよいよと与野党調整に入ったら、その翌日には、「やっぱり民主党単独で提出します」 との衝撃の通知。あわてて与党案も数日後に国会に提出したら、なな、なんと、衆議院解散。国会に提出された法案は全て廃案……。
 「そりゃないよー!」だ。(了) 


戻る