Apple Town


永田町通信 60
 

『私は考えていません』

 「私は考えていません」 と小泉総理は明言した。6月15日の郵政民営化特別委員会。社民党の横光克彦委員の、
 「この郵政民営化関連六法案について、修正をするのかしないのか、どちらですか?」 との質問に対する答弁。

 この日は中間的な総括質疑であり、NHKのテレビ中継も入っている。
 郵政民営化法案の国会審議の行方を占うには、この総理の一言が様々な憶測を呼ぶのであり、どう解釈したら良いのかが論争を巻き起こしているのだ。以下分析してみよう。

 「私は」考えていませんが、三権分立の憲法の精神からすれば、立法府である国会の決めた修正案については検討の余地がありますよ、との解釈。さらに「今は」考えていませんが、より良い修正案が出てくれば、その時には考えてもよいですね、との解釈。

 さらにさらに。
 横光さんは「するかしないか?」 と聞いたのに対して「する」 とも 「しない」 とも答えないで、「考えていません」 と答えた。よって、今後の論戦の煮詰まり具合によれば、「修正する可能性も残されている」との含みを与えたとの解釈。

 いずれにせよ、「しない」という言質を与えていないので、「修正する」方向での可能性をさぐるべきであろうとの希望的観測が一人歩きしているのである。
 この一言は、ターニングポイントなのだ。全く修正しない、とにべもなく切って捨てるのであったら、それこそ政局。

 衆議院の委員会や本会議の採決時、今のままの法案であれば与党自民党から反旗をひるがえす確信犯がどどっと現れる。万が一、造反議員が続出して廃案にでもなれば、小泉さんの方針からして解散総選挙。当然、党の方針に反して反対票を投じた議員は公認されない事態も想定され、自民党は分裂状態で選挙に突入。

 そんな選挙になれば漁夫の利を得るのは民主党であり、混乱した政局になれば、本来の目的である郵政民営化をして官から民の小さな政府を作るという小泉構造改革も実現が危ぶまれてしまう。
 目的実現のためにも、政府与党合意をした項目について、法案に明記する修正か、付則か、附帯決議か、何らかの手を打つことは当然であろうというのが、周囲のヨミであり、期待なのである。

 自民党内反対派にしても、オメオメと野党と手を組んで公然と反旗をひるがえすわけにはいかないと困っている。
 修正、付則、附帯決議などの、何らかの担保を勝ち取ることによって、国民の不安を少しでも解消することができるならば、消極的にでも賛成にまわらざるを得ないとの議員が大方なのである。

 だからこそ、小泉さんの言語力がクローズアップされることになるわけだ。
 事は衆議院だけの問題ではない。
 参議院の事情も絡んでくる。
 衆議院では45名の自民党議員が本会議で造反すると否決されるが、参議院では18名の造反で否決。つまり、参議院の方がハードルが低い。だからこそ、参議院自民党のドン、青木幹雄会長は、
 「中途半端に荷崩れして参議院に送ってもらっても、法案成立の責任は持てない。参議院の方が反対派が多いのを、今は抑えているだけなんだから、衆議院段階で政府与党合意のポイントを修正してもらわないと、危なっかしくて受けいれられないね!!」 と語気を強めるのである。

 6月15日と言えば会期末を4日後に控えた大切な日。つまり、会期延長をして、衆参両院で郵政民営化法案を成立させるために、一つの決断を小泉総理がしなければならない大切な日。
 決断の中身こそが、(1)何日間延長をし(2)どの程度の修正をするか、である。

 (1)の何日間か? は修正をどの程度するかによって決まってくる。
 衆議院段階で修正案が固まり、その修正案を参議院自民党が呑める案であるならば、そんなに長い期間の延長をしなくても、政局を気にしなくても良くなるし、何よりも民営化に懸念を示す国民の心配が減れば、それはそれで意義深いのであるから。
 政府も、与党も、野党も、マスコミも、国民も、固唾を飲んで見守る中での、最大の注目発言が、
 「私は考えていません」 全てを理解していながらこう発言する小泉総理は、稀代の策師なのかもしれない。 


戻る