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永田町通信 57
 

『一人相撲』

 衆議院の文部科学委員会を舞台にして、参考人招致を行うかどうかについて一人舞台が演じられることになった。
 テーマは「義務教育費国庫補助負担法の改正案について」だ。
 主役である野党のA氏が、
 「田中康夫長野県知事を呼びたい」 と理事会で打診し、与党のB氏が、
 「自民党の国会対策委員会に持ち帰って検討します」 と持ち帰って来た。

 私はこの文部科学委員会を担当する自民党の国会対策副委員長である。参考人招致について、人選を検討しなければならない立場にある。検討の結果、田中知事は残念ながら見送らせていただくことになった。その理由は明白であった。参考人招致においては、この時点ですでに二名が与野党合意して決定していた。中央教育審議会の鳥居会長。そして、三位一体改革の地方案を議論した、全国知事会における義務教育担当部会長の石井岡山県知事。

 鳥居会長は中教審の会長であり、中立の立場として、意見をうかがう。
 石井知事には、全国知事会を代表する立場として、賛否両論を含めて、知事会内の意見を述べていただく。よって、同じ知事会のメンバーであり、義務教育費国庫補助負担堅持派の田中知事のご意見は石井さんとダブってしまい、見送りとさせていただく、という明白な理由だ。

 そのことを与党のB氏から、野党のA氏に対して説明していただいたのだが、A氏が承服されなかった。困ったことだ。参考人招致の人選については、ルールがある。全会一致、という大原則だ。自民、公民、民主、共産、社民等の全会派が
 「この人選でよろしいですよ!!」 との全会一致の合意がなければ、国会にお呼びしない、という前例に従ったルールである。

 その背景とはこうだ。
 ある会派が「好ましくない」、「必要ない」、という参考人が、採決によって強引に国会招致されてしまうことになっては、時には人権侵害となる恐れもあり、また時には平穏な状況で冷静に参考人質疑がおこなわれない事態を引き起こす可能性もあるからである。
 だからこそ、参考人招致は「全会一致」で「平穏」で「冷静」な状態で行われるべきということで、ルールが申し合わされているのだ。

 ところがA氏は納得しない。
 「どうして自民党は田中長野県知事を拒否するのだ。いったいどういう自民党の方針なのか。言論を封殺するのか。どういう理由で参考人としてふさわしくないのか?!」
 ……。
 「いやいや、拒否をしているのでも、ふさわしくないと言っているのでもない。知事会代表としては石井岡山県知事に、知事会内の賛否両論を含めた意見を開陳していただくことになっており、二人も必要ない、と言っているだけです。石井知事は知事会の義務教育部会という、正式に議論する場の担当部会長であり、この方をお呼びすれば十分です。」 という返答をするのだが、納得していただけない。A氏がさらに続けて主張されるには、
 「私はすでにB氏に了解してもらっており田中知事に伝えて日程を開けていただいた。長野県から上京して参考人質疑をしていただく事を受けていただいた。私の立場はどうなるんですか?」

 「党に持ち帰ることを了解したのであって、人選の決定を了解したのではない。田中さんに連絡したのはAさんの判断であって、国会の意思として決定して、正式に文部科学委員会が招致すると決めていない。自民党の返答は明確であり、自民党の方針です。」 しかし、ここまで説明してもA氏は納得せず、
 「どうして田中知事をよばないのか?! 党の方針とは何か?!」 とくり返すばかり。さらに
 『田中知事を参考人招致しなければならない。自民党の方針を示せ。でなければ納得しない。ということは全会一致の原則に反する。』
 ……。
 結局、文部科学委員長は「全会一致とならず」というルールに従って参考人招致そのものを断念するという決断を下した。鳥居さん、石井さんの二人については合意に達していたというのに……。
 A氏の一人相撲をどう考えたら良いのだろうか。A氏にはA氏の理屈はあるのだろうか。あるとしたらへ理屈だとしか思えなのだが……。こんな次元でもめている場合だろうか……。(了)


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