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永田町通信 55
 

『永田町 vs NHK !?』

 政治家が政略を仕掛けられたと言ったら言いすぎだろうか。

 それも、仕掛けた側が国民の受信料をいただいて業務を成り立たせている公共放送のNHKのチーフプロデューサー。仕掛けられた政治家が次期総理候補ナンバーワンとして期待の高い安倍晋三幹事長代理。こんなプロレスの場外乱闘もどきの対決が起きてしまうのも永田町の世界。

 NHKが平成13年1月に放映した、戦時中の慰安婦問題を扱った番組の編集をめぐり、政治家(安倍氏、中川昭一経産相)の介入によって改変が「あった」と実名で告発したのがNHKのチーフプロデューサー。

 彼の主張することが事実であるならば、それは憲法の保障する「表現の自由」の侵害であり、放送法三条に規定する「放送番組は、法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」の趣旨に違反する。ところが事実はそうではなかった。

 当の安倍さん、中川さんがそれぞれ記者会見し、報道番組にも自主的に出演して、謂われなき誤認に対して事実関係を明らかにし、圧力や政治介入を明確に否定したのである。
 では、真実はどこにあるのか。
 それは、放送法三条に規定するこの部分にあるようだ。

 放送事業者に対して「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と求めている点にある。
 放送前日の1月29日に、予算案説明で訪れたNHK幹部職員に対して安倍さんは、「NHK側から永田町で話題となっている番組について説明があった。私は、放送法は問題がある番組については多角的に議論するようにとの規定になっており、法律に則って公平公正にお願いします、と至極真っ当な、当然のことを言ったに過ぎない」

 と語っている。ちなみに中川さんは、放送三日後の2月2日に面会したことをNHKの幹部側も明らかにしている。

となると、これらはちっとも安倍さんや中川さんの圧力でも介入でもない。敢えて指摘するならば、NHK幹部の判断による「自主判断」である。番組内容について、放送法に抵触しないように自主判断した結果、編集作業が行われた、と理解するのが真実であろう。

 では、何故今、この4年前の「放送前の番組編集問題」が担当チーフプロデューサーの涙の抗議会見となってしまったのか、だ。いくつかの理由は考えられる。安倍氏自身が指摘している。

 1.海老沢会長をはじめNHK批判が高まっている今を狙い、海老沢体制に不満を持つ職員から下克上の火の手があがった。海老沢体制の弱体化の象徴的内部告発。つまり、狙いは安倍、中川両氏以上に、海老沢体制そのものの打倒。

 2.今年は教科書採択の年。今回の圧力記事を書いた朝日新聞のH記者はこの問題を取り扱い、扶桑社の教科書を葬り去ろうとしてきた。また、北朝鮮への経済制裁問題でも悪意ある記事を書いてきた人物。今回の朝日新聞の報道は思想的な背景があり、私のイメージダウンを図り、目障りな安倍、中川を消し去りたいという意図があると思う。

 ……ここまで安倍さんが自身の口で明確に指摘している以上、告発したプロデューサーには立証責任があるし、朝日新聞社側も見解を明らかにしなければならないであろう。政治家と報道の関わり方において、今回ほど当事者の実名が飛び交い、社会問題化したことは近来まれであり、それだけに報道の背景が明らかにされねばならないであろう。

 なぜならば、我々政治家は「やられっぱなし」であり、報道する側は「やり放題」に近いからである。私的な事だが、私も選挙直前に、根も葉もない「離婚騒動」を地元新聞に報道され、大きなダメージを受けたことがある。5年前のことなのに、いまだに知人や友人から、「馳さんは大変だね。離婚したんですってね。」 となぐさめられ、いちいち 「離婚していません。仲良くやってます。あれは、選挙前に意図的に流されたウワサを新聞社が否定もせずに報道しただけ。離婚なんてありません。」と否定し続けねばならない被害をうけている。

 事は、永田町vsNHKでも、海老沢体制vsNHK職員という単純な構図ではない。「報道の自由」の大義の下で、世論の誘導がなされているのではないか、との疑義なのである。ぜひとも、事実をこそ正確に報道してもらいたいものだ。(了)


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