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永田町通信 51
 

『大は小を兼ねる?! その2』

 どのようなナショナルトレーニングセンターを日本に作るか、でアテネ五輪前に関係者が論争したのは、宿泊施設の規模。日本オリンピック委員会の福田富昭強化本部長が主張するのは五百人。
 「五百人だよ、五百人。そんくらいないとチーム競技の強化拠点として使えないよ!!」
 対して
 「二百人。それで十分」 と主張するのは、渡辺競技スポーツ課長。

 「に、二百人?! そんなんじゃ宿泊できない選手があふれちゃって、ナショナルセンターとしての機能を果たさないよ。文部科学省はそんなみみっちいこと言ってて、本気で日本の競技力向上できると思ってるの!!」
 と語気鋭く、迫力満点で追及するも、それを柳に風と受け流して切り返す渡辺課長。

 「そうは言いましても、私どもも各競技団体にリサーチかけましたから。それによると、現在の国立スポーツ科学センターの70室をそのまま活用するとしても、プラス二百室あれば十分です。根拠のある数字を示しませんと、財務省の主計局の査定は通りません」
 いかにも官僚らしく、論理的に詰めてきた。
 しかし、そんなことではひるまないJOC。
 「それがおかしいと言うんです。各スポーツ団体が国際大会で闘うための競技力向上、強化を担当する統括団体はJOCなんですよ。どうして我々と事前の調整をして意見を聞いてくれないで規模を決められるんです」
 と詰め寄る市原専務理事。

 「だからこうしておうかがいしてるのです」 と静かに答える渡辺課長。(オイオイ、この場を設定したのは俺だろうが!!と突っ込み入れたくなるのをぐっとこらえる馳浩)
 さらに叩みかけるJOC側。
 「我々は、団体競技の強化拠点作り、ナショナルコーチアカデミーの本部事務所、ジュニアからの一貫指導拠点作り、選手の語学指導や文化的活動支援機能をも求めています。選手が一線を退いてからのセカンドキャリア育成のための拠点とも考えています。そういった新ゴールドプランの理念を具現化させ、日本国民に、スポーツを強化することが国民に活力を与えることになると言うことをご理解いただきたいのです。各競技団体が個別に文部科学省から事情調取されれば、それはビビッて控え目な数字を出すものです。我々JOCは、各競技団体を統括する立場として、NTCの機能を支えるためにも五百人収容の宿泊施設を求めます」

 「しかし、稼働率を考えますと、現実的ではありません」
 と喰い下がる渡辺課長。

 「大は小を兼ねるだよ。小っちゃい器にはその程度の人材しか集まらないよ。NTCの機能が多様で、施設が国際規格なら、放っておいても稼働率は上がるよ。そうしないと、中国には勝てないよ。彼らは、それこそ国を挙げて北京五輪を目指しているんだから。このままじゃ政治的影響力もスポーツも全てアジアの盟主は中国のままだ。我々はせめて、スポーツの世界で中国に一泡吹かせたいんだ。日本人に、子供達に自信と勇気をあたえたいんだ!!」
 気圧されてきたか、渡辺課長は腕組をして考え込んでしまった。

 このあたりで調整に入るのが政務官である私の役目。
 「福田さん、JOCとしてももう少し詰めた数字を用意して下さい。おっしゃることは良くわかりますが、財務省との交渉は我々文科省がするのですから、根拠が要ります。渡辺課長も今日をきっかけにさらにJOCと意見交換して下さい。幸いアテネ五輪の日本チームの好成績が、NTC整備のバックアップとなりますから」
 そう言うと、渡辺課長は深々とJOC側に頭を下げて握手を求め、前向きに話し合うことを約束し合った。

 そしてアテネ五輪は金メダル16個、そしてメダル総数37個の大躍進。日本中が湧いた。
 政府として大方針が示されたのが、9月1日。首相官邸での祝勝会での総理演説。
 「国民栄誉賞の声もありましたが、やめました。それよりも、北京五輪に間に合うように、少なくとも一年前には使えるように、NTCを整備させます。これは、私が指示します。お約束します」

 どっと盛り上がったのは、選手よりもJOC役員席と文科省の渡辺課長の席だったのは言うまでもない。
 宿泊施設も含めて、早急に整備計画を前倒しして北京五輪前に使えるようになったのである。まさしく「大は小を兼ねる」であり、日本選手団の活躍の賜。結果、成果を出せば、報われるのだ。(了)


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