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永田町通信 50
 

『大は小を兼ねる?! その1』

 アテネオリンピックの応援で連日寝不足。しかし、日本代表の活躍のおかげで、心地良い疲れでもある。
 この原稿を書いているのが大会4日目の8月17日。4日目にして金メダル5、銀メダル1、銅メダル1の成績は、好調な滑り出しと言っても差し支えあるまい。

 その内容もすばらしい。五輪3連覇の柔道の野村。結婚して谷でも金メダルのヤワラちゃん。ハンセンとの激闘を制した百平の北島。階級を上げてオール一本勝ちの内柴。28年ぶりの王国復活となった体操男子団体。いずれの金メダルも、極度のプレッシャーを克服し、実力をいかんなく発揮しての結果。

 この好成績の背景に何があったのかを分析してみなければなるまい。実は、いくつかの要素が絡み合っているということを見逃すことはできないのである。
 まず、ジュニア時代からの一貫指導。柔道では、町道場。水泳や体操では、クラブチーム。子どものときに素質を見抜いた指導者が、選手の肉体的、精神的な成長に応じての連続的な指導をすることである。

 この一貫指導体制を堅持し、小学校から中学校、中学校から高校、高校から大学、社会人へと、計画的に発達に応じた指導をできることは、効果が大きい。学校体育や部活動での指導では、中学や高校や大学に入学するたびに指導者や練習環境が変化してしまい、素質を伸ばしてあげたり、個人的な選手の悩みに応じてアドバイスしたりはできない。

 次に大切なのは、科学的トレーニング。
 日本人は、残念ながら体格、体力の面では欧米人や黒人には及ばない。しかし、敏しょう性や筋反射神経においては秀でている。 そういった日本人の体質の特性を見抜き、効率的なフォームを映像で解析し、そのフォームに必要なトレーニングプログラムを作成し、高いモチベーションでそのプログラムも完遂する。それも、栄養や睡眠などの生活の全てをコントロールしながら…これが科学的トレーニングである。

 やみくもに根性や気合いだけでは、ケガをしたり燃えつき症候群となったり、ムダなフォームがしみついてしまって成長がストップしてしまう。日本人の、また、個々の選手の筋力や体格の特性に合ったトレーニングができることが、科学的トレーニングの意義。そして何よりも大切なのは、選手を取り巻くチームの存在。
 コンディショニング、技術練習、栄養管理、情報戦略と、それぞれの分野において選手をサポートし、励まし続けるチームの存在である。かつてのように、監督やコーチとの二人三脚だけでは世界で勝ち抜けないのである。

 この、一貫指導体制、科学的トレーニング、そして、一競技者をサポートするチームの存在によって、日本代表選手は着実に国際競技力を伸ばし、アテネオリンピックの好成績に結びつけて来たと言える。
 この強化策を陰で支えてきたのが国立スポーツ科学センター(JISS)である。日本オリンピック委員会(JOC)の作成した新ゴールドプランを科学的に下支えし、日本のスポーツシーンを劇的に変化させた功績は大なのである。

 そこで、アテネで強化策の正しさが証明されたこともあり、次なる一手はナショナルトレーニングセンター(NTC)の整備なのである。実はオリンピック開会の二週間前に、文部科学省の私の部屋(政務官室)において、重要な会議を行ったのである。
 日本の国際競技力をさらに向上させるために、どのような規模のNTCを、どのような運営、管理体制で整備すれば良いか、その基本構想の詰めの協議をしたのである。

 JOCからは、市原理事、福田強化本部長、河野一郎NTC管理運営委員会委員長が出席し、文部科学省からは政務官である私と、渡辺競技スポーツ課長と坂元企画官が出席した。
 JISSの機能、役割の成功をさらに拡大させるために、隣接する土地を新たに整備しようというのが、わが国のNTC構想。各競技団体からも個別に事情聴取をした文部科学省としては、まだ統括団体であるJOCとの協議、調整が済んでいなかった。

 夏の来年度予算概算要求基準決定を目前に控えて、切羽詰まった最後の調整である。どのようなNTCを作るかによって、北京五輪を初めとして今後の日本スポーツ界の国際競技力向上のための基礎が固まるのであるから。この場で大論争となったのは、宿泊施設をめぐる「大は小を兼ねる」論争である。(この項、続く) 


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