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永田町通信 49
 

『加藤紘一の正論 その2』

 「私はイラク戦争の大義に反対している。大量破壊兵器の存在が明確でないからだ。大義のない戦争の後始末に、自衛隊を派遣することにも反対。また、6月28日に政権移譲された後にも、多国籍軍の一員としてサマワに自衛隊が残ることにも反対。我が国は湾岸戦争の時に、中山太郎元外務大臣は、明確に多国籍軍に参加することを否定している。国会の議事録にも残っている。こんな重要な問題を、自民党内の議論も経ず、公明党とも事前に調整せず、小泉総理がサミットに出かけて発言してしまう。それはおかしい。イラクに政権が移った時点において、一度自衛隊を戻し、安全を確認してから派遣するという選択肢もあったはずである。そういった日本国内の議論を十分にせず、また国会軽視とも受け取られる手続きで自衛隊を多国籍軍の一員として参加させてしまうことには、私は反対です。」

 ことここに至って、の感もないではないが、加藤さんが、正式な自民党の外交防衛合同部会において、ここまで明確に持論を展開し、小泉総理の判断に対して反対の意思表明をしたインパクトは大きかった。しかしながら、加藤さんの正論に同調の意見は広がらなかった。それは、正論に対する反論といった空気ではなく、

 「今さら自衛隊の撤退もなあ…」
 「多国籍軍への参加は世界への公約となってしまったしなあ…」
 「それに全会一致の国連決議もあるしな…」
 「人道復興支援だしなあ…」

 という、現実論からだった。小泉さんのやり方に対する不満や異論は出るものの、イラク戦争の大義論については議論は深まらなかった。それに、今、自衛隊を撤退させることが国益にかなうのかどうかの議論に入ると、武力行使をしない、非戦闘地域・多国籍軍の指揮下には入らない、との条件付きで、残らざるを得ない、という結論に落ち着いた。

 加藤さんは自分が発言した後は、他者の発言にじっと聞き入っていた。そして、最後に、会議の取りまとめ役の部会長が
 「それでは部会長に取り扱いを一任下さい」 と発言し、重苦しい拍手で多国籍軍への参加が執行部に一任されることになると、加藤さんはそれ以上意見を述べることなく、口を真一文字に結んで、首をかしげながら席を立った。そこにはかつての幹事長としての権限が今はもう失せているということの現実と、それでも自らの正論は党内に伝えておきたいとの迫力があった。

 私もこの議論に参加していて感じたのが、小泉政治の二面性の危うさだ。 まず、小泉さんという人でなければできない、大方針の決断力。
 ・サマワでの自衛隊の活動が、日本の国益にかなうのか。
 ・多国籍軍に参加することが、イラク国民のためになるのか。
 ・国際協調の一助として、評価が国際社会から得られるのか。

 この三つの大方針について、スパッ、と「決断 実行」の判断を下せるところが、過去の首相にはない強力なリーダーシップであろう。ところが、かみ砕いての国民への説明責任が果たされているかと言えばそれは不十分。野党のように、何でも反対を叫ぶ勢力に与するものではもちろんない。しかし、事前の説明や議論のプロセスが不透明であることには、与党の一員であり、小泉内閣を強力にバックアップして改革を推進している我々ですら、怒りを禁じ得ないのは事実。

 参議院選挙期間中、テレビ朝日の報道ステーションを観ていたら、古舘さんの質問に対して小泉さんはこう、簡潔に答えていた。
 「多国籍軍への参加? これは私はかねてから十分説明して来ていますよ。日本もイラク復興に参加できるような、そういう国連決議となるように、米英両国や国連に対してずっと注文してきた。その通りになったじゃないですか。全会一致の国連決議1546が採択されたでしょ。だから日本は多国籍軍に参加するんです。ただし、日本の憲法に則って、武力行使はしません。多国籍軍の指揮下には入りません。日本独自のイラク特措法に基づいて活動しますと。その日本の立場を、米英両国も、イラク暫定政権も、国連加盟の各国も了承したんです」

 これが小泉さんの正論。残念ながら、加藤さんの主張とは根本的にかみ合っていない。まず、大義論がかみ合っていない。次に、自衛隊支援ありきの小泉さんと、政策判断の理由を示すべきとする加藤さんとの違い。この違いを国民がどう判断するか、小泉さんはもっと肝に銘じるべきである。 


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