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永田町通信 48
 

『加藤紘一の正論』

 国会閉会日、6月16日。

 朝8時からの自民党本部外交防衛合同部会は殺気立っていた。

 小泉総理がサミットで約束してきた、

 「イラクにおける多国籍軍への自衛隊の参加」問題について、ようやく手続きが行われようとしていたからだ。

 政府も自民党をなめているとしか言いようがない。

 さっさと小泉さんが世界に約束しておいて、国内手続きを後からやろうというのだから。

 それも新聞報道の方がとっくに先走っており、その後に党内手続きが進められようとしているのであるから、参加議員の目も血走ろうというもの。皆手ぐすね引いていた。

 外務省の総合政策局長からの説明はこうだ。

 「国連安保理決議1546が全会一致で採択され、6月30日からイラク暫定政府に主権が移譲されます。新たな安保理決議で多国籍軍の任務の中に治安維持活動と並んで人道復興支援も明記されました。イラク特措法に基づく人道復興支援を自衛隊が継続することは重要です。そのためにはイラク暫定政府からの同意と法的地位確保が必要です。

 しかし、わが国が個別にイラク暫定政府より受入同意を得て、法的地位に関する合意を得ることは、暫定政府が発足したばかりであり、種々に不確実要素から事実上不可能です。従って、自衛隊が継続してイラク特措法に基づいて人道復興支援活動を継続していくためには、新たな多国籍軍の中で同意を取り付け、法的地位を確保することが必要です。」

 以上を説明した所で、質疑応答に入った。

 「指揮命令系統はどうなる?」

 「わが国の主体的な判断の下で活動します。多国籍軍の統合された司令部の指揮に従い活動するものではありません。」

 「それは担保されているのか?」

 「米・英両政府とわが国の間で口頭で了解に達しており、今後の閣議了解の中で説明します。」

 「条件はどうなる?」

 「イラク特措法の要件に則り、これまでと同様の活動をし、新たな任務を追加しません。したがって他国の部隊の武力行使と一体化しません。これに反する要請が多国籍軍司令部からあっても、わが国は断ります。場合によっては自衛隊の活動を中断し、撤退もあります。」

 「国会での了解はどうする!」

 「……政府としては、国連決議追加のためのイラク特措法の政令を改正し、基本計画の変更をし、政府の見解を整理した閣議了解を行うことを考えていますので、ご理解下さい。」

  ……

 こんな説明だけでご理解して下さいったって、ご理解できない。

 実態としては、これまでの自衛隊による人道復興支援活動を継続するだけのことなのだが 「多国籍軍に参加する」 という体裁が取られるとなると、なし崩し的であり、今までの 「多国籍軍は武力行使をともなうので日本は憲法上参加できない」 としてきた理論武装を再構築しなければならないこと。こんな大事なことを、国内手続きを後回しにして(国会への説明も後手を踏むことになってしまうわけで)一体小泉さんは何を考えているのだ。と怒り頂点に。部会は怒髪天をつく勢い。

 そこで、黙って腕組みをしていた加藤紘一元幹事長が手を挙げて発言された。

 「私は当初から自衛隊派遣に反対して来ました。それはイラク戦争の大義である、大量破壊兵器の存在が明確ではないからです。アメリカではCIA長官がその有無をめぐって辞任しましたが、わが国は誰も責任を取っていません。そして政策判断として自衛隊が派遣されることになりました。今、政権が移譲されるこの時は、自衛隊が撤退する一つの契機ですが、それも逸しようとしています。一体、この政策判断をしたのは誰なのですか?」

 この加藤さんの正論に対して、外務省は

 「それは、総理の、政治の判断です。」

 と言ってのけた。それを聞いてさらに加藤さんのボルテージがあがった。

 「小泉さんに政策判断させる情報の7割は外務省が持って行ってるんでしょ。2割は防衛庁。そして残り1割が小泉さんの判断ですよ。外務省の総合政策局や駐米大使の動きはわかってますよ。こんな中でなし崩し的に多国籍軍への参加を小泉さんに政策判断させるなんて、外務省はそんなアメリカ追従型の政策調整をしていて良いのですか。自衛隊の諸君は命令されれば任務として全力を傾けてイラクで活動するのですよ。万が一自衛隊が攻撃された場合、多国籍軍は守ってくれるのですか?多国籍軍にフランスやドイツや中国やロシアの主要国は参加するんですか?!」

 (この項次号に続く) 


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