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永田町通信 46
 

『私情を捨てよ!!』

 河村文部科学大臣が、いつもの冷静沈着さとはウラハラに、噴満やるかたないといった表情でまくし立てた。

 イラクで3人の日本人人質が解放された直後の閣議後の閣僚懇談会で、こんなことを言われたそうなのである。

 「参ったよ。あの人質3人の無軌道なイラク行きや、解放されるまでの家族のマスコミ対応の異状さは、教育の問題だっちゅう閣僚がおってな。わしまでが責められるんよ。こりゃかなわんよ。でもな、そうだそうだと同調するんよ、みんな…。」

 興奮すると地元山口弁丸出しとなる河村大臣。今回の事件が教育問題だと次々に指摘されて、そう言われればそうなのかもしれん、と興奮気味なのである。私は政務官として、「大臣、いったいどういうところが教育問題だと断罪されたわけですか 」と、なんとなくわかっていながらも、問題点を深く掘り起こすためにあえて質問した。

 「まずな、行っちゃいかん、危険地域じゃと外務省から退避勧告が出ておるところに、聞く耳持たずに出かけて行ったことじゃよ。」

 「そのことが教育問題でしょうか?」

 「人の忠告を真剣に聞いとらんちゅうことよ。聞く耳持たん、自己チューの若者は、集団生活の中ではハミ出しちまうわな。」

 「なるほど。」

 「あの3人は、イラク国民のために、自分も何かしてあげなければならない。何かできるに違いない、しなければ、と凝り固まっとるんよ。その志は素晴らしい。でもな、危険な所に行って、何かあったらどうするんか、何かないためにどんな準備が必要か、何かあったら自己責任をとれるのか、他人に迷惑をかけずに行動できるのか、っちゅう責任論や社会性がすっぽり抜け落ちとるんよ。

 カラスの勝手でしょ! じゃ済まんわなぁ、今回の人質事件に発展しちまっちゃあ。自分の行動の尻ぬぐいも後始末もできないのに、自分の考えの正当性ばっかり主張されちゃあ、救出の努力に汗を流している政府側としても、やり切れない気持ちになるよなぁ。」

 「ましてや、政府には邦人保護の義務もありますから、理由はどうあれ救出には全力を挙げねばなりませんからね。」

 「それに、国民の税金を使っての救出交渉ぞ。今回は、まあ、解放されたからホッと一安心できるものの、犯行グループに傷つけられたり、日本政府との交渉取り引きに外交政策がゆがめられたりしたら、それこそ国益を損なう事態になるとこだったんだよ。」

 「確かに、一部政党や一部市民団体や一部マスコミは、自衛隊撤退論や、小泉批判やらをはやし立てて、国内世論を混乱させようとしたりしましたね。」

 「そう。もちろん次元の違う問題だとして小泉さんもブレなかったし、政府批判の感情的世論は主流とはならんかったけど、一部の騒ぎであったとしても、マスコミがあそこまで大騒ぎすれば、犯行グループの意図するところは達成されたことになるんよ。つまり、人質をとって交渉を有利に働かせる作戦が一定の成果をあげたということだ。

 こんな事態に発展してしまったことを、あの3人はどう反省しているのか、っちゅうことよ。個人の主義主張はあるだろうけれど、それに基づいての言動に社会性がなければ、ただの私情にすぎない、ってことなんだよ。」

 「私情、ですか、なるほど」

 「私情に流されての行動は、争いや不和のもと。うらみやねたみや欲望や利権のぶつかりあいをうみだすばかり。私情を捨てて、万人の幸せを追求するという心構えを常にもっておかなければ、後先を見ない暴走をしてしまって多くの人に迷惑をかけてしまうということよ。そして迷惑をかけても、私情にこだわる人にとっては自分の言動は皆に迷惑をかけてしまったと自覚がないわけよ。まさしく自己中心的。こんな日本人ばかり日本の中にいるとしたら、どうなる、馳サン」

 「そりゃ、世界のモノ笑いの種です。世界平和に貢献する責任ある国家としての役割を果たせなくなります。自ずと、慎重な行動や、制約を甘受すべき事態があってしかるべきで、自重が求められると思います。」

 「だから、教育問題だといって他の閣僚が心配してわしを責めるんよ。一部の日本人が、私情に従って行動し、ルール破りをすれば、時には政府の土台が揺らぐということを、そして権利には常に責任がつきまとうことを、理解してもらいたいわけよ。」

 「その理解を求める作業が、教育なわけですね。」

 「そうじゃよ、私情を捨てて、だ。」


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