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永田町通信 38
 

『高齢者虐待の闇』

 国会は夏休み中。

 選挙区を歩きまわって、日頃のご支援に感謝申し上げる「ごあいさつまわり」を続けながら、夏休みの宿題に取り組んでいる。

 それぞれの議員には専門分野の政策や地元要望の案件があり、国会中では多忙ゆえに対応し切れなかった問題を、調査・分析して次期国会に備えておこうとの下準備が宿題なのである。小学生の頃を思い出したりもする。

 私の宿題のテーマは、高齢者虐待。

 きっかけは、こうだ。

 南野ちえこ参院議員から声をかけられたのである。

 「馳さん、児童虐待防止法の見直し作業のまとめ役やってるでしょ。だったら、私の取り組んでいる高齢者虐待対策にも手を貸してくださらない? 若い人のエネルギーが欲しいのよ。馳さんのパワーを貸してちょうだい!」
 とお願いの両手を合わされると断り切れない私の性格を知り抜いている南野さんならではの仲間集めである。同じ森派に所属する先輩後輩の間柄。

 南野さんのお誘いで取り組んできた政策には「学校図書館法の改正による司書教諭の配置」「性同一性障害者の性別に関する特例法」などがある。いずれも国政の一隅に光を照らすような、社会的弱者の立場を思いやる内容。
 「いいですよ。私で良ければ何なりとお手伝いさせていただきます!!」  と勢い良くいつものように気軽に勉強会に参加させていただいて、びっくりした。 あまりの、惨状に、である。

 内心、(お年寄りを虐待するなんて、日本人のモラルも肉親の情も地におちたもんだ)程度の思いだった。つまり、特殊な事情による特別な案件だと思い込んだのである。 しかし、実態はそうではなかった。

 介護保険制度の発足により、少しずつではあるが介護サービスが充実してきたがゆえに、今までは闇にくるまれていたこの問題が水面下から顔を出して来たようだ。 虐待の定義はまだ確立していないのだが、現在わかっている全容は以下のとおり。

 1.類型…身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待、ネグレクト(放置)。

 2.大別…家庭内虐待、施設内虐待、自己虐待。

 3..態様…

 ●被虐待者に多いのは、女性・80歳以上、要介護高齢者。

 ●日本で多いのはネグレクト、経済的虐待(年金の取り上げなど)。

 ●介護者と被虐待者の人間関係(嫁姑、高齢者同士、単身の息子と親など)。

 ●遺産相続がらみ。

 ●親叔や民生委員や保健師等の介入拒否。

 ●福祉、介護サービスの提供拒否。

 ●高齢者自身は虐待を受けているという認識希薄。加害者が肉親のケースが多いため、遠慮。

 

 4.法律的問題点…

 ●通報の仕組み、介入の仕組み(現状では強制的立入調査不可)。

 ●遺産分割争い、人間関係の調整に対する司法制度の機能のしにくさ。

 

 5.被虐待者へのケア…

 ●介護保険サービスの利用による第三者の関わり。

 ●緊急時の加害者(介護者)との分離。

 ●成年後見制度の活用。

 ●第三者による金銭、遺産管理代行。

 

 6.虐待者へのケア…

 ●カウンセリング

 ●福祉、介護サービスの紹介。

 と、とりあえず机上の勉強をしてから、実地検分に歩いて驚いた。まさしく、どのご家庭にも起こり得る問題であり、特殊事情による特別な案件などではなかったのである。

 私が保健師さんや介護ケアマネージャーや民生委員さんなどに会ってうかがったケースは、もしかしたら私の家庭にも降りかかってもおかしくないような事例ばかりだった。

 ●高齢者の単身世帯、あるいは無職の息子と二人暮らし。年金は息子が取り上げて生活費充当。介護の面倒は見ずに放置状態。近所の人が心配して声かけしても「うるさい、かまうな」と鍵をかけて接触拒否。異臭がするので警察官立ち会いで説得して中に入ったらすでに死亡……。

 ここまで最悪のケースに到らなくても、家族が介護保険によるサービスを拒んで、家の奥に放置状態にして、コンビニのおにぎりやパンを与えているだけ、という信じられない事例がゴマンとあるのである。

 これを社会問題と言わずして何と言おう…。

 もはや公的サービスや家族愛やボランティアなどの支え合いを超えた次元に、深い闇の中に高齢者虐待が存在するということを、私たち日本人は自覚しなければならない時代なのである。 


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