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永田町通信 37
 

『打ち上げ花火の効力』

 永田町では、政局のかけひきをねらったフライング気味の発言のことを「打ち上げ花火」と言う。9月の自民党総裁選を二ヶ月後に控えた通常国会の会期末には、あちこちから観測気球になぞらえられる打ち上げ花火が華々しくマスコミ紙面をにぎわせている。

 国会終盤というのは、緊迫する。

 重要法案処理のための日程が限られたり、野党が内閣不信任案を提出する機会をうかがって政権に揺さぶりをかけたりするからだ。

 そんな時に与党の軸である自民党内から打ち上げ花火が乱発されるのは迷惑なことである。イラク復興支援新法を参議院で成立させるための日程調整もあるのに、与党内から内閣に弓を引くような発言でもあれば、まさしく国会審議に直接影響を与えるとともに内閣支持率を低下させかねないからだ。

 しかし、そうであってもこの人の口にバンソウコウは貼れないのである。

 森喜朗前総理の一連の発言である。

1.「それでも私は同日選が良いと思う。」

2.「総裁選を前倒しすれば良いじゃないか。」

3.「9月末には重要な外交案件がある。それは安倍副長官もわかっているだろう。」

4.「党三役も内閣も一新。挙党態勢で改革前進。」

5.「小泉さんの無投票再選が良い。」

 ここ直近の五つの発言を解説しながら、打ち上げ花火の役割りを理解してみたい。

 まず1。同日選とは、来年6月に衆院と参院の選挙を同時に行うということ。なぜその方が良いのかの正論はこうだ。自民党には衆参の選挙区候補者に後援会がある。

 また、比例代表候補者には強力な業界団体という後援組織や職域支部がある。それらの組織が一体化して選挙運動すれば、当然眠っていた票の掘り起こしができる。無党派層が過半数を占める有権者の投票行動に訴えかけるに際し、衆参連動して候補者を紹介できることで、選挙費用も労力も節約できるのであるから、同日選は与党大勝の原動力となるという理論。

 とりわけ参院では自民党単独過半数を回復するための千載一遇のチャンスであるから、同日選をやるべしとの戦略性もある。ちなみに、公明党は「混乱するのでやめてくれ。衆院選は今年の秋に!」との要望強し。もちろん解散権は小泉総理だけの特権であり、森さんに決定権はないのだが、世論喚起にはなっている。

 2.の前倒し論は、「早く総裁選をしてしまえば、反小泉抵抗勢力は準備不足で対抗馬を出せまい。」との挑発。また、総裁選が早く終われば、早く臨時国会を開くことができ、そうすれば総理が解散権を行使する条件が整うので、小泉を選挙の顔として応援しようという若手国会議員がなだれを打って総裁選で小泉支持にまわるだろうという脅し。

 3.は、暗に北朝鮮情勢に劇的な変化があるよ、という示唆。外交問題で最高の得点を小泉さんがかせいでしまえば、誰も対抗できまい、との読み。つまり、小泉に任せておけば北朝鮮問題も大丈夫だぜ、とのアッピール。

 4.こそ森さんの真骨頂。本来ならば、小泉さんは山崎幹事長と竹中大臣だけは何があっても変えたくない人事。党内の風よけとして、抵抗勢力のガス抜き役をしてくれるサンドバッグの山崎さんを変えてしまえば、小泉さんにとって自民党とのつながりの拠り所がなくなってしまう。また、構造改革路線の象徴である竹中大臣を変えることは、自己否定につながってしまうから、小泉さんは何があっても竹中さんを守り抜きたいところ。

 その事情を知り抜いている調整型政治家の森さんは、総裁選後の小泉さんに人事のフリーハンドを与えるために、あえて抵抗勢力にも入閣の期待を持たせる「人事刷新」発言をしたわけである。当然、永田町では森さんの発言を額面通りに真に受ける人は一人もいない。しかし、総裁選二ヶ月前の、まだ通常国会中の時期に、小泉さんに近い実力者がそう言明することで、少なからぬ動揺を与えたのは事実だ。「もし、解散総選挙が早く来たら小泉抜きでは勝ち抜けない」という議員心理は当然、言動を制約することになる。最終的には変人小泉さんの心中は誰にも見抜けないのだが、総理側近の森先生の発言に右往左往する人たちがいるのも事実。反小泉勢力をあぶり出すには、きわめて効果的な「打ち上げ花火」なのである。人事の話は!!

 5.の無投票再選は、抵抗勢力の尻に火をつけるための打ち上げ花火。対抗馬探しが表に出れば出るほど小泉さんの存在感が浮きあがることをねらってのくさび。

 まぁ、森さんの打ち上げ花火通りに事は進まないことの方が多いのは事実なのだが、小泉改革の先駆け役としての打ち上げ花火の役割りは、大。もしかして森さん、総理の時より今の方が政治力を発揮してる?


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