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永田町通信 34
 

『この部屋じゃできない』

 その日、衆議院別館第16委員会室では、開会前に与野党の議員がなごやかに談笑していた。まだ朝早く、昨日のお互いの選挙区における統一地方選開票結果の品評会(?)である。興奮冷めやらぬ口調での報告会。

 「どう、子分は当選した?」

 「おかげさまで。自民党県議団はなんとか過半数確保しましたよ。これで私の選挙も一安心ですかね、わっはっはー。」

 「何言ってんの。そうやって安心してると民主党が足もとすくっちゃうよ!」

 「そりゃ怖いこと言うねー。ところであんたんとこの民主党県議はどうだったのョー!」

 「??ぼちぼちですわ。うちみたいに田舎になると、民主党といっても組合中心でね。なかなか地元に根ざした候補を当選させられないもんですわ。保守系無所属で、国会の選挙になったら少しは応援できるという子分が少々受かっただけです。なかなか地方での打倒自民党はむずかしいチャレンジですよ。」

 与野党ともに、あと一年以内には衆議院議員の任期が切れ、自分の選挙を控えているものだから、事のほか今回の統一地方選結果には一喜一憂。開会前のなごやかなひととき。

 ところが、肝心の委員会開会時刻の10時を過ぎても一向に始まる気配がない。

 この日は、新たに修正案も野党案も提出された「個人情報保護関連法案」を審議する第一回めの特別委員会開会日。

 ふつう、月曜日は午後からしか委員会を開会しない。午前中は、地元に帰っていた国会議員が東京に戻ってくる移動時間に使うためだ。ましてや、統一地方選の投開票日の翌日は、その重要性を考えれば「政治休戦」でも良かった。それを敢えて開会の段取りまで持ってきたのは、与党としてもどうしても4月中にこの法案を衆議院で成立させて参議院に送付したいとの執念があるから。

 「おかしいねェ、せっかく朝一番の飛行機で時間に間に合うように上京してきたのに、まだ始まらないねェ。」

 「何かあったのかね。」

 そうささやきあっているところに、目を吊り上げて入って来て演説を始めた野党筆頭理事。

 「この部屋じゃ我々は審議できません。特別委員会は第一委員会室で審議するはずなのに、与党側は勝手にこの別館16委員会室に決めてしまいました。我々の要求が受け入れられなければ審議には応じられません!!」

 言うだけ言うと一方的に他の野党議員をうながして、出て行っちゃった。それを見て困った表情で「まぁまぁ!」となだめにかかる与党筆頭理事。

 なんだか二人でもめて言い合いしてるぞ?!

 あっけに取られる我々与党側委員。

 注目の法案審議であり、傍聴者もマスコミ記者もテレビカメラも多数入っていたのだが、皆何が起こったのかわからずにボー然。

 そのうち事態が飲み込めてきた。

 野党筆頭理事の言い分は、

 「慣例通り、特別委員会は第一委員会室で開会しなければ審議に応じない。今後の日程協議にも応じない。」とのこと。

 与党筆頭理事の言い分は、

 「今日の委員会室決定は、委員長職権。公報で連絡済みの既定事項であり、今さら他の部屋には変更できない。16委員会室でも十分審議できる広さなのだから、約束通り審議に応じてほしい。野党の委員だって、公報で確認して朝から自席に座っていたじゃないか。今さら審議拒否だなんて、ヒドイヨ!」

 との正論。

 しかし、席に着いてもらえなければ、与党だけの片肺飛行で勝手に進行することはできず、結局委員長も困り果ててこの日は開かずじまい。

 ??バカみたいな理由で本当に流会となっちゃった。「せっかく上京してきたのに、こんなことなら地元で県議のあいさつまわりに同行してりゃ良かった。まったく!」とブーたれる与党メンバー。

 ウラがある。こんなバカげたことがまかり通るはずがない。きっと何かウラがある??と推測したらやっぱりウラがあった。

 野党の時間かせぎ戦術だったのだ。

 今国会、最大の与野党対決注目法案は二つある。この「個人情報保護法案」と「有事立法」。いずれも特別委員会を設置して並行処理しようとしている重要法案。

 この二法案について、統一して与党に対抗できない野党、とりわけ党内論議のまとまらない民主党は、時間かせぎをして、採決を回避しているうちになんとか党内をまとめるか野党内の意思統一をしようとしたのである。そこで、法案内容の本質論、修正論の前に、審議委員会室の場所にイチャモンつけてきたというわけだ。

 こんなのって、あり? イラク問題や経済対策で国難の時だというのに、あまりにも幼稚な戦術と言えまいか?! 


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