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永田町通信 31
 

『敵の弱点、泣きどころ』

 1月中旬。通常国会の開会目前。

 与党三党の国会対策委員会のメンバーが一同に会した。

 12月以来1ケ月ぶりに顔を合わせたから、情報交換にと話しに華が咲く。

 「みんなちょっと太ったね。やっぱり新年会まわりのせいだな!」

 「だって、後援会は『今年は解散総選挙の年になるんだってね!!』ってプレッシャーかけまくるから、こっちだってドプ板やらざるを得ないよ。おかげで飲みすぎ食べすぎストレス太りの三重苦さ。」

 「そんなこと言って、ただのモチの食べすぎなんじゃない?!だって森喜朗や古賀誠は解散なんてしてる場合じゃないって言ってるんだから、あわてなくてもイイじゃん。」

 「バカだなー。実力者がナイナイって強調するほど怪しいんだから。常在戦場だぜ!!」

 「……そりゃそうだな……」

 政治家の発言ほど、行間を読め、といったところか。

 そうこうするうちに、本会議場すぐ横の、第15控え室に与党の国対メンバー全員と、法案を提出する各役所の官房長と政務官たちが全員集合した。せまい部屋に総勢百名ほどの人数が集まったものだから、息苦しいことこの上ない。押し合いへし合いしながら、ようやくこの熱気で「あぁ、国会始まっちゃうんだなー。休みも終わるんだなー。」と、休暇を終える学生のような気分に浸るのであった。

 両肩を寄せ合いながら椅子に座ると、テーブルにはぷ厚い資料が。

 表紙には「提出予定法案説明資料」とある。パラパラッとめくって手ぎわりで実感するところ、少なくくとも40ページ近くある。

 案件を数えてみると、

 ・予算関連法案……35件

 ・その他……80件

 ・条約……9件

 ・継続法案……11件

 ・検討中……9件

 ・検討中の条約……7件

とある。

 足し算すると、総計151件となる。

 みんな、同じことを考えていたのだろうが、誰かがため息まじりに資料に目を落としながら叫んだ。

 「150日間で151件か!!これじゃ解散してる場合じゃねぇよな。仕事だ、仕事。」

 どっと苦笑いが起きる。もちろん解散はいつでも覚悟していることではあるが、会期(150日間)中に151本も抱えて処理するなんて、至難のワザ。小泉首相の言葉を借りるまでもなく、選挙より仕事、だ。

 「これじゃ、選挙区にも帰れないよなー……」

 「そう悲しむな。これがコクタイの宿命よ。俺たちゃ天ぷら屋じゃねぇか!!」

 天ぷら屋、イコール揚げ(上げ)屋ということ。法案を仕上げる日程調整と野党交渉を担当しているので、コクタイ(国会対策委員会)メンバーは周りから労いの称号として、天ぷら屋と呼ばれるのである。

 「天ぶらいくら揚げたって、草取りしてなきゃ選挙に落ちるんだぜ!!」

 そう。草取り、イコール日頃の戸別訪問をくり返して、選挙区に根を下ろしておかなきゃ、対抗馬に票を持っていかれてしまうとの恐怖感が常についてまわるということだ。

 政策を実現するために国会議員になったのに、なぜか任期も残りわずかになると選挙区のことばかり気にかけてしまうのは、政治家の本音とは言え、情けないことでもある。

 国民の期待は景気回復の一点に集約されているのであるから、我々は任期ある限り、ワキ目もふらずに国会で本会議や委員会に出席したり、政党内で政策の企画立案に汗を流し続けねばならない。

 そんなやり取りをしていると、国会対策委員長のごあいさつが始まった。

 自民党は、根回しと調整の天才、中川秀直。

 公明党は人情派の東順治。自公の二人は前国会から引き続きの名コンビ。

 最後にあいさつに立ったのが注目の的、保守新党の佐藤敬夫。いわずと知れた、民主党の前国会対策委員長。そう、前国会では中川・東コンビの敵方の大将として采配をふるっていた人物。わずか1ケ月のうちに、何と与党側の一角を占めるに到ってしまったわけだ。

 佐藤さんは少々照れくさがりながらも、力強く、短くあいさつした。

 「私は敵(民主党)の泣きどころも落とし所も戦略も、全てお見通しです。前国会ではこの私がずいぶん与党を苦しめたつもりですが(笑い)。これからは、与党の一員として、最大限のカを発揮しますので、どうぞ、お好きに、ご存分にお使い下さい。しっかり働きますから!」

 深々と頭を下げる姿に、大きな拍手と笑いが起きたのは言うまでもない。 


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