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永田町通信 30
 

『臨時国会MVP!?』

 平成14年12月13日 金曜日。

 第155回臨時国会最終日は、まったりとした時間の流れるがままに、淡々としていた。

 「馳先生、たまには私が水を注いであげますよ!!」

 と、社民党の山内恵子代議士が、グラスに並々と氷水を注いでくださる。

 文部科学委員会の理事会が行われるたびに、理事の中でも最年少の私は、いつも皆より早く理事会室に入り、野党理事の皆さんのために備えつけの水差しでグラスに氷 水を注いで来た。

 「どうぞ!」

 「アラ馳さん、ありがとうね。」

 何気ないやり取りであるが、ともするとギスギスお互いの主張をぶつけ合う与野党折衡に入る前に、グラスの水をぐびりと喉に流し込んでから話し始めると、意外とつんけんしないものなのだ。与党理事としての私の一つのパフォーマンスでもある水注 ぎの儀式。

 それが最終日ともなれば、野党理事の方からおだやかな笑顔で日頃のお返しにと水 を注いでくださるなごやかさ。まさに今回の消化試合国会を象徴する一シーンである。山内さんは日教組出身。

 「次の通常国会は与野党ぶつかりますわね。教育基本法改正案や、国立大学の独立行政法人化の法案が出てきますでしょ。」

「お手柔らかに、お願いしますョ!」

「何言ってるの、がんばりますわョ。でも、元国語の先生だった馳先生とは、一度ゆっくり教育談義したいですね。与野党関係なしに。こないだのあなたの性教育についての質問には考えさせられましたよ。」

「そりゃどうも。こちらこそ、先輩からのご指導お願いしますよ。」

 と、少々けん制し合いながらも、二人ともソファに深く腰かけてヤレヤレ、終わったか、今年も、といった調子で談笑。

 この臨時国会は、事ほど左様に論戦の深まらない無風国会だった。とは言うものの、決して争点がなかったわけではない。

・北朝鮮との国交正常化交渉の行方。

・イラク問題が緊迫した場合の日本の対応。

・デフレ対策。

・不良債権処理加速化対策。

・補正予算の編成。

・大島農相の秘書口利き疑惑。

・有事立法や個人情報保護法の取り扱い。

・ペイオフ凍結延期法案。

 などなど、あげればキリがないほど政府与党を追い込むような材料は山盛りであった。ましてや、臨時国会序盤では、野党にとって勢いを増せるはずの統一補選があったし。

 七選挙区のうち、山形(加藤紘一)新潟(田中真紀子)千葉(井上裕)大阪(辻元清美)はいずれも政治とカネのスキャンダル絡みが原因の補選。どう考えても野党圧勝のはずだったのに。

 ふたを開ければ自民党の一人勝ち。そして国会自体も緊張感のないまま閉会。話題になったことと言えば、不良債権処理加速策優先の竹中大臣と、積極財政派の与党抵抗勢力が角突き合わせたとか、道路公団民営化推進委員会の七人の侍が内輪モメしたとかの類。

 どう考えても小泉首相演出のもとで、官邸と与党が政策論争することによって世論の耳目を集めるばかり。国会審議形骸化。委員会で定足数に満たないで中断したり、本会議で綿貫議長が前代未聞の採決スッ飛ばしをしたり、緊張感まるでなし。にもかかわらず、政府提出法案七十八件と議員立法九件(継続含む)全て成立せしめたのだから、与党としては役目を果たして万々歳。

 中川秀直国会対策委員長に、

 「見事な手腕ですね。」 と労いのことばをかけたら、

 「とんでもないョ馳クン。この臨時国会のMVPは、鳩山由起夫さんだよ。」 と静かに笑って片目をいたずらっぽくつぶって見せた。

 皮肉と言えば、そうかもしれない。

 しかし、我々与党側とすれば、物足りなくもあり、こんなんで良いのか、と思ってしまう。

 民主主義とは、少数意見の反映や、対案を示して論戦を交わしてこそ発揮されるもの。

 ところが、与党の失点を厳しく追及して内閣不信任案を提出するどころか(別に出 してほしくはないけど、一国会に一回は出せるんだから……)支持率2・9%にまで 低迷してしまった民主党。

 とうとう国会最終日に辞任にまで追いやられた鳩山由起夫さんの責任や、大。

 かわりに自民党の抵抗勢力が国民の不満の代弁者になっているが、どう考えても、これで良いとは思えない。

 健全な野党勢力は、健全な民主主義の原点なのではないか?!


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