Apple Town


永田町通信 29
 

『直立不動』

 今年もやって来た、税調の季節。

 私は労働専任部会長。

 国会議員になって苦節(?)早や7年目、はじめて正々堂々と、部会からの減税要望を発言できる身になった。

 何せ、インナーと呼ばれる長老(山中貞則、林義郎、宮下創平、相沢英之、奥野誠亮)の目の前で、発言マイクを握ることを許されるのだ。この図々しい馳浩にしてさえ、ビビって足がふるえるほどの緊張なのである。

 「中小零細企業の雇用不安をあおる外形標準課税に反対!!時期ではない!!」

 「勤労者財形への特別法人税は非課税延長!!」

 「持家取得を促進するために、住宅取得をした場合の所得税特別控除については、再居住した場合も再延長してください!!」

 などなど、一夜漬けで必死に勉強した中味を大声で発表するわけだ。

 私が発言するのに合わせて、仲間である労働族議員が、「その通り」とか「頼みまーす」とか叫ぶのである。昨年までは私もこの掛け声係りだったのである。

 一通り部会長が重点項目について主張した後は、数名の族議員が応援演説を許される。

 しかしその際も、ルールがある。

 元気よく挙手をし、指名されたらば先ず、選挙区と名を名乗ってから発言しなければならないのである。それも簡潔に。

 参議院の宮崎英樹議員(比例。日本医師会推薦)が元気良く手を挙げた。まるで小学一年生のように(本当に)。

 「はい、どうぞ!」 と司会役の宮下創平小委員長が指名する。

 「ありがとうございます。参議院比例代表の宮崎です。診療報酬の非課税措置について説明しまーす……」

 すかさず、税の神様、山中貞則最高顧問がじろりとにらんで一言発する。

 「オイ! 医者が医者のこと、言うな!」

 一瞬、税調の部屋を静寂が包む。

 それまで意気揚々とマイクを握っていた宮崎議員(もう70才を過ぎているというのに)は、とたんに

 「は、はい。すみません!!し、しかし……」 と直立不動となり、小さな声でボソボソ。

 とても発言を続行できる雰囲気ではなくなり、着席。

 続いてマイクを握った武見敬三議員。

 「参議院の武見です。私は医者ではありませーん。」 どっ、と笑うインナーたち。緊迫した空気がゆるむ。

 「分煙環境整備のために取得した装置の割増償却制度をお願いしまーす。たばこは健康に害があります。たばこ税増税賛成!! 一本一円で年間二〇〇〇億円の財源となります。ぜひこの財源は、健康増進のための保険事業に限定して使って下さーい!!」

 「増税した使い途まで限定するとは、おまえ、チャッカリしとるナ!!」 と神の声。ここでも「ハッ!!」と直立不動の武見議員。

 こっけいと言えばこっけい。

 日頃「センセイ、センセイ」と呼ばれている国会議員軍団も、税の神様の前では一様に直立不動の気をつけ状態になるのであるから。

 ヒソヒソ説。(税調会議のすみっこで……)

 「アノ、尾身議連どうなったのかナ?」

 「尻切れトンボだよ。どうあがいたってインナーの権力には逆らえないよ。だって、税調の副会長や幹事になれなかった人たちのガス抜きの場だろ、アノ議員連盟は!! と ても神様たちには刃向かえないよ。」

 なぜ、そうなってしまうのか?!

 答えはひとつ。長年のキャリアと圧倒的な専門知識があるからだ。

 国家の歳入歳出の総本山である、財務省の主税局担当者ですら及ばないキャリアと専門知識があるから、インナーたちは修羅場をくぐり抜けてきたのだし、10年20年程度の国会議員なんて「鼻たれ小僧」に見えるのである。そのことがわかっているので、目の前で発言する我々もビビるのである。

 その神様、山中貞則先生と赤坂で一献かたむけた。本会議の歴代議事進行係りのOB 会で。酔いにまかせて聞いてみた。

 「来年の酒税はどうなりますか?」

 「そりゃ、平準化だョ、キミ。」

 「どうして先生は税をやろうと思ったんですか?!」

 「国家を想ってじゃよ。一番やりがいがあったし、一番名を挙げることができたしな。当時は名を立てるためやったら、平気で先輩議員をぶんなぐったもんじゃ。わしなんか、気に入らん先輩をいつも本会議入り口で待ち伏せしとったもんじゃ。その先輩は2ヶ月ぐらい本会議に出て来んかったけどな……。」

 御年81才、代議士歴46年。

 我々鼻たれ議員どもは、直立不動でその昔話に耳を傾けながら、山中先生の地元の焼酎「森伊蔵」をたしなんだのであった。


戻る