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永田町通信 27
 

『小泉訪朝その後!!』

 横田めぐみさんのお母さん。娘を拉致された被害家族の一員であるからこそ、安否情報がもたらされた直後の会見での発言は重かった。娘の存在と本人の死亡発表後、だ。

 「めぐみが犠牲となり、使命を果たしたと思えば……いずれにしろ人間はいつか必ず死にます。」

 我が子の犠牲を知らされ、それを使命という言葉で表現せざるを得ない心情は筆舌に尽くしがたい。ましてや、人はいつかは死ぬという死生観にまで昇華させ、歴史の 一ページの国家間の不幸な出来事とまで位置付けなければ感情を圧しとどめることの できない心境を、我々国民は我が身にふりかかった事として悲しみと怒りを共有せざるを得ない。

 事ここに到って、小泉訪朝その後について検証しておかねばならないことは、日本国民全員の課題であろう。

 まず、国交正常化再開へ向けての一歩を踏み出したことは高く評価すべきだ。

 北朝鮮の金正日総書記が「拉致」を認め、謝罪したことに加え、8件11人の安否確認がなされたことは、トップ会談なくしてあり得なかった政治決着である。

 小泉首相が「前提条件」としていた拉致事件についてこれだけの進展を見たことは、日本政府としても今後の外交交渉の主導権を得たことである。今日までの「弱腰」を反省して、明確な行動を北朝鮮に対して求めることによって、国交正常化への道を進むべきであろう。

 第一に求めるべきことは、8件11名の拉致事件の全容解明と補償である。計画の首謀者関与した組織、実行犯の特定、拉致実行の全容、渡朝の経緯、北朝 鮮における生活、死亡の確認などなど、被害家族の求める全ての要求に応じることが、 正常化交渉の入口であるべきだ。

 その上で、北朝鮮の国家犯罪の認定、謝罪、補償が必要であり、また、日本国政府としても長年にわたりこの一連の事件の解決を見ることができなかった責任を負うべ きである。

 金正日総書記がトップ会談で謝罪したことは、北朝鮮のこれまでの外交政策の転換を意味する象徴的なできごと。従って日本としても遠慮することなく主張をし続けねばならない。

 当然、拉致事件解明を突破口とする正常化交渉は、日本の国益を大きく守ることになる条件作りであることを、政府も国民も理解すべきである。

 それは、朝鮮半島における核問題の解決、ミサイル発射モラトリアムの延長、工作船の事件を二度と起こさないとの約束などに集約されて行く。

 北朝鮮を国際社会へいざなうことの重要性とは、とりも直さず、北朝鮮が何をしで かすかわからない国ではなくなった、との担保を日本が取ることだ。それが北東アジ ア地域の仲間入りをさせることになるのである。国交を正常化させるということは、 安全保障問題について、常に協議の場を設置することであり、両国にとって、お互いがお互いの「生命、財産をおびやかさない」との約束を取り交わすことにつながるのである。

 日本にとっての北朝鮮との国交がなかったことの一番の不利益とは、「何をするかわからない」「何を考えているかわからない」との不安をぬぐい去ることなのである。 そして国境を接する隣人として、最低限の交通と通信と通商の便をはかるための取り 決めを交わすことである。

 外交とはかくも壮大であり、かくも琴線にふれることなのである。

 私は1995年4月、平壌を訪問した。プロレスの試合に出場するためである。そ の時通訳をつとめてくれた平壌外国語大学日本語教授と称する李さんはこう言った。

  「馳さん、私は日本語教師だが、一度も日本に行ったことがない。私の夢は、一度日本の教育現場を視察することです。資源の少ない日本が今日世界の経済大国に発展し たのは、何よりも教育の力のおかげです。私も一度は日本の学校教育の現場にふれて、 わが共和国(北朝鮮)のために尽くしたい。日本の教育は私達にとっての脅威です。」 と言い切った。そして、

 「馳さんも元々高校教師であり、今はプロレスラーだ。もし、いつの日か両国の関係が正常化したら、共和国に来て日本語やレスリングを教えて欲しい。そして、両国の理解者になってほしい。」と述べた。

 人それぞれに運命があり、使命があるのかもしれない。

 李さんの言葉を私は今も忘れない。

 ましてや、横田めぐみさんのお母さんの発言を肝に銘じて、国会議員としての使命を果たさなければならない。

 北朝鮮の拉致という国家犯罪を糾弾し、解明すると同時に、国交正常化への歩みを加速させねばならない。両国の国益と、世界平和のために―。


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