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永田町通信 25
 

『俺の目の黒いうちは』vs『じゃあ死んでくれ』

 

 「俺の目の黒いうちは通させない」。「じゃあ死んでくれ」。前言が選択的夫婦別姓法案に対する山中貞則代議士の言葉。後言が笹川尭・前科学技術相の言葉。
 山中代議士と言えば、御年81歳でありながら党の最高意思決定機関・総務会のメンバーであり、こちらのほうが有名だろうが、党・税制調査会最高顧問であり過去3度会長職にあった「ミスター税調」。
 一方笹川代議士は賛成派の旗頭である方だ。このように自民党では、選択的夫婦別姓に対して議論百出。反対者も多く、先頃法務省は内閣提出法案として予定していた選択的夫婦別姓法案の国会提出を断念した。

 しかし、7月24日新たな展開が生まれた。それはまず内閣提出法案ではなく、議員立法として法案を出す。さらに選択的から例外的制度に改める、つまり夫婦の合意があれば別姓を名乗れた制度から、家庭裁判所の許可がなければ別姓を名乗れない制度に衣替えする。この2点を基本に「例外的に夫婦の別姓を実現させる会」が発足 した。
  しかもこの「実現をさせる会」(会長・笹川代議士、事務局長・野田聖子代議士)に何と山中代議士が最高顧問として就任されたのである。他に野中広務・元幹事長、古賀誠・前幹事長も名を連ねた。そして当日党の法務部会で正式に議論してほしいと提案され、反対論もあるなか了承された。  これが新たな展開の中身であり、マスコミを 大いに賑わせている。

 問題はこの展開を別姓の賛否を含めてどう見るか。

 まずは別姓の賛否について。私は個人的には同姓維持論者である。特に夫婦別姓になり子供と一方の親の姓が異なることから生じる子どもへの影響を懸念するからだ。しかし、結婚して別姓になり今まで築いてきた仕事上の信用がなくなってしまっ た、そんな働く女性が多いとはいえないまでも確実にいらっしゃる事実が一方である。

 この点を踏まえて、旧姓を通称名として健康保険証や運転免許証等にも広く戸籍姓と併記できるように法改正したら良い。通称名を社会で広く使えるようにしたら良いとの意見もある。高市早苗代議士等が主張される考え方だ。
 しかしこの案でも解決できない点がある。結婚で姓を失う喪失感・屈辱感だ。感じない人も多いと思うが感じ る人も確実にいらっしゃる。自分が生まれてこのかた使用してきた姓は現実社会とのかかわりの中で、まさに自分そのものであり、法律的言い回しで恐縮するが、人格的利益であると考えている人を救う道を残しておくべきではないか。
 また少数者の価値観に寛容であることこそ、信教の自由のように個人の(結局は少数者の)人権尊重を最高の価値をおく近代先進国の、大げさに言えば人類の進歩の歴史ではないかと私は考え た。
 また広く旧姓を通称名として使用できるようにすることは、事実上外から見ていてその人に戸籍姓が二つあることになり、かえって人違いや混乱が生じるのではないだろうか。以上の点から、個人的考え方や思想を離れて、政治家として私は別姓導入に賛成するのである。
 ただ、子どもへの影響も考えたら、夫婦の安易な合意で別姓が自動的に認められるのは良くない。そこで、家庭裁判所の慎重な審議に基づく許可を条件に例外的に認める制度にすべきだと思い、今回の新たな議員立法案に賛成するのである。
 具体的には同姓になることにより受ける職業生活上の不利益等と子どもが受ける不利益と十分利益考量して判断してほしい。またある程度の年齢にある子どもがいれば子どもの意見も尊重すべきであると思う。

 次に手続き論の問題である。こんな意見がある。「例え議員立法であろうと政党の承諾がない限り国会提出は認めるべきではない」と。先の郵政関連法案で問題となった「与党事前審査・承認制」の議員立法版である。これははじめに反対ありきの議論である。個人の価値観に深く根ざし、党の基本理念や政策に明らかに反していない法律ならば、法定数の賛成議員がいれば国会に提出できるのが議員立法である。憲法が保障する国会の立法権は、政党にあるのではなく、原則国会議員にあることを忘れてはならない。大いに党内で議論し、本会議では潔く自由投票で決着すべきもので ある。

 最後にマスコミに一言。議論の本質はそっちのけで、野田聖子対高市早苗両代議士の女の闘いとして取り上げるのは言語道断。返す刀で我々国会議員も議員個人の誹謗中傷ごときものはあってはならない。


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