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永田町通信 17
 

『環境族議員の旨味!?』

 「馳さん、環境族議員の旨味って何ですか?」いきなりの質問に苦笑いで一呼吸置かざるを得なかった。

 紅葉まばゆい千葉大学キャンパス内。正門入口左手にあるけやき会館で行なわれた市民講座に特別講師として参加したときのこと。演題は「環境族議員の挑戦−21世紀の政策形成プロセス」。

 環境ホルモン問題を生命、健康、医療の観点から研究している森千里教授の依頼を受けての講演だ。

 私はひとしきり、日本の政策形成プロセスの二元制を説明した。内閣と並行して、いや、内閣以上に時には発言力を持つ自民党族議員の関与についてである。この、内閣と自民党(与党)の二元制が、時には政策決定、実行のスピードを遅らせている原因であり、小泉構造改革の抵抗勢力なのである、と。

 何せ、自民党による法案、予算案の事前審査制度がある限り、いくら小泉総理が髪ふり乱して「改革なくして成長なし」と力説したところで一本の法案も成立しない。この、自民党による事前審査制度こそが、族議員の存立基盤なのである。政府がどんな政策を出してこようとも、族議員が「ノー」と言えば、その法案、予算案は省庁にさし戻し。族議員の意向には逆らえないシステムなのだ。

 そして、その族議員の知恵袋であり、選挙の際には票を取りまとめ、ふだんの政治資金の面倒を見てくれるのが、特定の業界団体、企業群なのである。もちろん、業界団体や企業の皆さんは、自分たちに不利な知恵を族議員に授けたりなんかしない。末永く生き延びていくために有利な知恵(政策、税制、予算)を、人形劇のあやつり師よろしく、子飼いの族議員に吹き込んで意のままに動かして行くのである。

 ちなみに、自民党の五大族議員とは、道路族、農林族、厚生族、商工族、郵政族。それぞれのバックにいる代表的な業界団体とは、土建業界、農協、日本医師会、経団連、特定郵便局長会である。

 そこで、だ。ここまで話しをしたところで、一人の主婦が挙手をして質問したのが冒頭のことば。彼女は環境保護市民団体の代表だと言う。ズバリ核心を突いてくる。

 「環境族議員なんて、自民党内じゃ浮いた存在じゃないんですか? 環境保護のためにいろんな規制を厳しくすれば、いつも経済界から横ヤリが入るじゃないですか。環境ビジネスなんてまだ新興業界だから、政治資金を取りまとめて政治家に配る芸当なんてできないだろうし、そうかといって選挙のときに票を取りまとめる方法なんて私たちのような市民団体は知らないし、一体どこに環境族の旨味はあるんですか。」

 改めて問われて目がテンになった。

 そっかー。国民の多くの方々は、自民党国会議員イコール族議員。族議員イコール票とカネに汚い。族議員イコール抵抗勢力、というレッテルを貼って予備知識としているのか。ここに政治不信の原点を見出しているのか、と思い知らされたことだ。

 私は、誤解を解き、事実をちゃんと伝えなきゃ、とていねいに説明した。

 「環境族議員に票もカネもついてはきません。環境問題に熱心に取り組むのなんてあたりまえのことですから、国民は高く評価しないでしょう。それに、私たちがおつきあいするのは研究者や市民団体の方がほとんどですから、票もカネも無心しません(できません)。それに、規制や基準をより強化する方向で動きますから、産業界も敬遠して近寄ってきませんし。私が今まで携わった予算、法案といえば、環境ホルモン対策、PCB処理、ダイオキシン対策法、土壌汚染処理などですが、いずれも産業界に新たな設備投資を促したり代替物質を開発してもらったりとコストのかかることばっかりです。特殊法人改革にしても、我々は環境事業団廃止論者ですから、官僚からも煙たがられていますしね。票とカネの旨味がない、というところが、逆に環境族議員としてのウリなんですけどね。でも、誰かがやらなきゃ、日本の未来はない、というのが自尊心でもあるんですけどね。あえて言うならば、研究者、産業界、官僚、マスコミとの調整役は我々しかできない、というプライドです。」


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