Apple Town


永田町通信 16
 

『日本の原則、核不拡散!!』

 10月26日、金曜日、朝、8時30分。

 自民党本部706号室。対外経済協力特別委員会。議題は「アフガニスタン周辺諸国への経済援助」。

 外交族として重鎮の幹部が緊張の面持ちで居並んだ。中山太郎、衛藤征士郎、鈴木宗男、高村正彦。そして外務省からは田中均アジア太洋州局長が説明役として加わった。

 議題の中心は、「パキスタン、インドへの経済制裁を解除するか、どうか 」。

 衛藤氏は、前外務副大臣の経験から「解除」の論陣を張った。理由は、
 「テロ事件発生後、アフガニスタン周辺国の政治、経済の安定は、テログループ撲滅という目的達成のために必要不可欠である。アメリカやカナダも、すでにパキスタンに対して核実験を受けて科した制裁を解除している。
 また、アメリカはムシャラフ政権安定のために6億ドルの財政支援を予定している。日本も47億円の二国間支援を緊急経済支援として発表し、その大半をすでに実施している。パキスタン経済が抱える根本的問題は、深刻な財政赤字と対外債務負担による構造的問題である。短期的対処ではなく、中長期的対処が必要。
 経済の悪化が政権基盤を揺るがせる可能性も否定できない。より一層の国際的支援が必要。ここは日本としても、経済制裁を解除して、ムシャラフ政権のバックアップを経済的に担保することが必要ではないか 」

 と意を決して演説。しかし、間髪入れずに出席していた松岡利勝代議士が異論を唱えた。

 「それはおかしい。日本の外交政策の原理原則をまず踏まえるべき問題だ。」

 こういう論戦が平場で毎日行われていることが自民党の幅の広さであり、強味であるだろう。松岡代議士の言う原理原則とは、日本の核不拡散政策のことを指すのは言うまでもない。世界で唯一の被爆国であるからこそ、世界中の国が何を言おうとブレてはいけない問題点である。ましてや、経済支援とは、国民の税金や、財政投融資の原資である郵貯や簡保や公的年金のお金が使われるのだから。国民の理解を得て行われなければならない。

 松岡さんの論陣はこうだ。

 「1998年5月に核実験を行ったパキスタンとインドへの経済制裁を解除するには、それなりの理由が必要だ。それは、CTBT(包括的核実験禁止条約)に両国が署名することが必要だ。ムシャラフ大統領は、署名するためのペンを握る、とは過去に発言したとしても、まだ署名していない。日本としては、制裁解除を一足飛びに決断するのでは外交戦略上も場当たり主義と批判される。テロ撲滅への対応は、国際的な合意であるとしても、経済支援に当たっては十分な議論が必要だ 」

 ことここに到って衛藤さんと松岡さんの論戦は真っ向から対立した。しかし、不思議なことに、その対立が一つの方向にベクトルが合わされるのも自民党の弾力的、柔軟なところ。

 衛藤さんが松岡さんと声を大きくして論戦しながらも一つの落とし所へと議論を誘導する。

 「日本の核不拡散政策については国際的に認知されているところだ。それに異論はない。しかるに、今般のテロ対策において、アフガニスタン周辺諸国が経済的、政治的に安定していることの重要性も、国際的な合意だ。
 ましてや、周辺国であるウズベキスタンやタジキスタン、パキスタンの国内にはイスラム原理主義者や、タリバン支持派が一定数いることも事実。これらのオサマ・ビンラディン支持派が政治的な圧力を強めることは、許されるべきことでもない。
 ならば、日本としては、そういう中央アジアの国々やパキスタン国内の政治状勢について十分な情報収集をして注意を払いながらも、(つまり、パキスタンの核のボタンがタリバン支持派に渡らないような政治状勢であること)政権安定のために経済制裁を停止することに異論はないのではないか。
 制裁を一時停止して、財政支援や債務くりのべをすればいかがか。もし、核不拡散への動きにブレーキがかかる事態にでもなれば、停止の停止をすれば良いではないか。それなら日本国民も理解して、経済支援を許してくれるのではないか」

 松岡さんも、日本の原則が守られているならば、衛藤さんの見識に対して反対するものではない、と明言した。

 外交政策が方向付けられる現場を見た思いがした。まさしく、政治は生き物である。


戻る