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永田町通信 15
 

『議員立法の役割り』

 「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」
 言わずと知れた日本国憲法第四十一条の全文である。六年前、私は参議院議員に初当選した時に、まっ先にこの部分をくり返し読んで
 「ヨシ 俺も国会議員のはしくれだ。議員立法をいーっぱい提案して成立させるゾォ 」と鼻息荒く決意した。 ところが たった一人でいくらイキがったって法律なんて作れっこない、ということがすぐに判明した。

 まず国会法のカベ。議員が議案を本会議に発議するには、衆議院で議員20人以上、参議院では10人以上の賛成を必要とするのである。ただし、予算の裏付けを必要とする法律案の場合は、衆議院で50人以上、参議院では20人以上の賛成が要るのである。

 つまり、予算に絡む法律案を衆参両院で成立させようとすれば、気の遠くなるほど多くの仲間の協力が必要。だから大政党の幹部の差配が必要となるわけだ。

 「何だ、やっぱり権力とは数の力か……」と落胆した私は、これを逆手に取って一つの議員立法を作成し、自民党の議員立法を審査する会に提出した。だいたい、国会法にはどこにも政党に関わる規定は見つけられないのだから、政党が国会運営を牛耳るのも根拠のない話。しかし、やっぱり数は力。比較第一党の組織力は無視できない……どころか従順にならねばならぬ。

 私が提案した議員立法とは「国会法改正案」。つまり、議員が議案を発議する時の要件を大巾に緩和し、一人でも法律案を提出できるようにする内容。根拠となるのは、日本国憲法第四十一条。

 私の国会法改正案を一通り読み終えた先輩議員は、資料をバサッと目の前に放り出し、苦笑いしながら一言こう言った。
 「だめ。」
 「ど、どーしてですかぁ…」喰い下がる馳。
 「これじゃ、野党にどんどん発議されて、国会運営が混乱する可能性があるじゃないか 」
 ………なんだよ。国会は、まず円滑な運営ありきかよ。チェッ、つまんねー……。 そういじけたのが6年前。

 あれから、少しずつ議員立法の取り扱われ方が変わってきた。もちろん、国会法が改正されて発議要件が緩和されたわけではないが、「政治家主導」の象徴として、官僚組織との緊張関係を維持する上での手段として議員立法が使われるようになったのである。

 例えば「ダイオキシン対策法案」。
 国民の健康をおびやかすダイオキシンの排出を規制する法案だ。本来ならば政府が責任をもって内閣法として提出すべき。ところが政府部内では、環境庁(当時)が「規制強化」を主張し、通産省が「技術が追いつかないし、設備投資に金がかかりすぎる」と反対。

 調整がつかなくなったので、「では国会議員主導の議員立法でまとめるから、役所は知恵は出しても口出すな」と当時の池田行彦自民党政調会長が命じて、超党派の議員立法として成立した経緯がある。

 つまり、役所同士の利害関係のぶつかりあいを政治家が仲裁に入ったわけだ。この類の議員立法には、法務省と大蔵省(当時)の主張がまとまらず、同じく議員立法となったコミットメントライン法案がある。この法案は、中小企業への金融機関からの融資を迅速に円滑に行なう必要があり、急を要する経済対策という観点からもあった。まさしく縦割行政の弊害を議員立法が救ったのだ。

 また最近では「責任野党」を提唱する民主党が積極的。
 その理由、本音は「成立しなくても仕方ない。でも、政府与党の対策を検討し、出し続けることこそ、政策立案という政党本来の体力をつけることになる。与党のように霞ヶ関の官僚の言いなりではなく、市民団体やNGOや法律家や学者などをシンクタンクとすることによって、国民の声を吹い上げるのだ」ということ。

 その心意気や、良し。与党も独自のシンクタンクを持ち、官僚の言いなりを改めなければいけない時期なのだ。議員立法を増やして行くことこそ、21世紀型の政策形成プロセスでもある。


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