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永田町通信 13
 

『純ちゃーん!!』

 「純ちゃーん」と女子高生が黄色い嬌声をあげる。金髪の若者たちが「コイズミー、かっこいーぞー 」とこぶしをふりあげる。おばちゃんたちまでが一目でも総理の姿を目にやきつけようとしてとびはねる。

 参議院選挙の全国遊説に同行した私は、各地でくり広げられる小泉フィーバーを冷静に観察し、また分析することができた。

 これほどまでに日本のリーダーが期待をもって迎えられたことがかつてあっただろうか、と思えるほどの熱烈現象の根源は一体何なのだろうか
 街頭演説の様子、小泉総理の演説内容への反応、そして総理の人柄などから、国政の今なすべきことについて考察してみたい。

 「みなさーん、元気ですかー (どわーっと拍手)それではぁ、たっだいまより、自民党を変える、日本を変える、闘う総理大臣、小泉純一郎がごあいさつ申し上げまぁぁぁす」と、まるでリングアナウンサーのように盛り上げ役として紹介するのが遊説局長である私の役目。ここで総理がパッと右手をあげて、
 「どーも、コイズミですー?」と静かに語りかけると、とたんに「キャー」「カッコイー」「純ちゃーん」との嬌声。

 しかし、一見ロックコンサート風の立ち上がりも、総理の演説のボルテージが上がりはじめると一変する。
 老いも若きも女も男も、皆シーンと水を打ったように聞き耳を立て、目を凝らして総理を見つめ始めるのだ。その主要な部分は決まって二ヶ所あった。

 まず、「自民党をブッつぶす」

 党内の抵抗勢力が、参院戦後に改革路線の足を引っ張るようならば、私が自民党をブッつぶす。つまり衆院解散に打って出て、政界再編も辞さず、と言明するところ。「今まで与野党ともに思い切って行革断行できなかったのは、役所に連なる特殊法人や企業や労働組合に選挙で票も金もお世話になっていたから。しかし小泉改革は違う。圧倒的国民多数の支持があれば必ずできる。一部の業界団体や組合の言うことばかりに耳を傾けていてはダメだ。そんな自民党ならいらない 」とまで言い切ってしまう。この、退路を断って改革にまい進する姿勢にこそ、共感が集まっていた。

 次に「米百俵選挙」だ。

 「今さえ良ければ良い、という財政運営はバブル後の10年で失敗した。少々の痛みに耐えてでも、明日の日本を良くしよう。輝く未来を子どもたちのために準備しよう。そのための政治をしよう」と訴えると、誰もがうなずいた。驚いた。

 国民に「がまんをしよう」と与党が訴える選挙なんて前代未聞だ。野党はいたずらに「痛み」の不安をかきたて、自民党になんかできっこないと主張して総理を攻撃しているが、それすらも竜に介さず、「まぁ、選挙だから野党もそう言わざるを得ないんだろう。でも、私が言っている構造改革論は、森内閣まで野党が主張していたことなんだけどな」と切り返してしまうスマートさ。

 オフレコのない、率直な物言いは、聞く人の胸にストンと落ちる。簡潔にして明僚な論旨は誰にもわかりやすく、明日への希望を与えてくれるし、私もがんばらなきゃ、とのヤル気を喚起されているようである。

 具体論も数多くあった。道路特定財源見直し、地方交付税交付金見直し、特殊法人ゼロベースで統廃合、役所の公用車は三年で全部低公害車に転換、保育所待機児童三年でゼロ作戦、沖縄県に大学院大学など「改革なくして成長なし」の哲学にはこれっぽっちもゆるぎがなかった。

 ただ、移動中の束の間には、歌舞伎や古典文学の話しを私から聞くのも楽しみにしておられた。「年の瀬や明日待たるるその宝船、なんて忠臣蔵の名場面に出てくる一句だけれども、なんか、そんな気分だな、選挙で街頭演説していると 」といった具合いである。

 また、京都ではわざわざ野中広務さんを選挙カーの上に呼び寄せて「野中さんも私の改革を支えてくれてまーす」と手を取ってカメラにアピール。見ようによってはこれほどの当てこすり(?)もなかった。

 純ちゃん旋風もいよいよ選挙後が本番。自ら退路を断った小泉総理の覚悟を、しっかり支え切ることができるか、が国会の焦点となる。

 まずは、靖国神社参拝問題だ 

(つづく)


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