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永田町通信 12
 

『加藤紘一さんと、飲んだ!』

 加藤紘一さんと、一杯飲んだ。永田町の常識から言うと、以前なら考えられない事件。派閥の親分である加藤さんと、森派で、それも森喜朗会長の一の子分と自他ともに認める馳浩が、酒席を共にするなんてことはまず考えられないことだった。それだけお互い派閥間のかけ引きや不文律があって、派を越えての交流は皆無に等しかったのである。

 しかし、小泉総裁が誕生してから党内の空気はガラリと一変。むしろ、派閥の垣根を低くして交流し合った方が、同じ自民党の一員としてお互いに高めあえる、というムード。

 私も、森政権へ野党が提出した不信任案に同調しかけた加藤さんには党内で激しく攻撃してきたけれど、その時と今の政治状況は違う。むしろ、杯を重ねて腹を割った話し合いをした上で、加藤さんという政治家の真意を知っておきたいという好奇心は強く持っていた。たまたま、文部科学委員会でとなり合わせに座っている加藤さんの側近である谷垣禎一さんと世間話しをする機会に、思い切ってお願いしてみた。

 「谷垣先生。俺たち若手はなかなか加藤さん同席で政策議論したことないんですよ。一席設けてごちそうして下さい、と加藤先生にお願いして下さいヨ。」
 ごちそうして下さいヨなんて、図々しい頼み方ではあるが、谷垣さんは、
 「あぁ、良いですヨ。」とニコニコと快諾して労を取って下さった。

 「馳さん、加藤会長も喜んで、とのことです。せっかくだから、他の若手もどうぞ声をかけて呼んで下さい。」との返事だったので、私は浜田靖一、林芳正、下村博文、梶山弘志、後藤田正晴の精鋭に声をかけた。皆よろこんで出席することとなった。

 六月中旬の国会開会中の夜、赤坂の吉祥という料亭に我々はお招きを受けた。緊張気味の我々の前に、加藤会長は好物のワインをニ本持参してちょっと遅れて合流した。さっそく、グラスを傾けながらのホロ酔いトークバトルは開戦。

 「田中外相は大丈夫ですかね 」

 「勉強不足は気になるし、アノ性格だからな。でも、党内議論をオープンにすれば誤解もなくなる。小泉さんは本気で支える気だしな。」

 「小泉さんの靖國参拝なんですが…。」

 「私は反対だ。政教分離、A級戦犯合祀、中国、韓国の反発と問題は多い。総理個人と言えども国の機関。十月のAPECは北京だし。個人としての参拝は、総理という立場では通用しない。参拝した後の修復が大変だ。」

 「秋の臨時国会の争点は?」

 「雇用悪化による失業対策。それと企業倒産増に対する金融緩和措置だろう。そのためには二年前の金融国会の再現もあり得る。政局に結びつけずに小泉政権の構造改革を支える必要がある。いざとなれば、連合や民主党との話し合いも重大な局面。そうなることを想定して…。」

 これ以上は書けない。加藤さんなりの小泉政権を長続きさせるシナリオを描き、その根回しを進めているということだった。

 「いざとなったら加藤さんが財務大臣か外務大臣になったらどうですか?」

 「何言ってるの。まずは小泉政権を支えること。でも、もし小泉さんが総裁選で負けていたらなぁ……」
 と遠くを見つめた。どうも、YKKによる政界再編の仕掛けも練っていたようである。

 懇親会は三時間を超え、それでもしゃべり足りなかった。政治家というより人間味あふれる知的加藤紘一を感じた。

 後日、加藤さんから伝言をいただいた。

 「アレ、楽しかったよ。また、いろんなメンバーでやろう。楽しかった。」


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