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永田町通信 1
 

『自民党の明日を創る会』の危うさ

 衆議院議員に初当選して一週間後、永田町に戻った私のケータイに一本の電話が入った。『明日の本会議前の両院議員総会で、執行部に対して意見しようよ。与党三党で絶対安定過半数を得たから、今回の総選挙は勝利だ、国民の信任を得られたなんて野中幹事長は発言しているけど、とんでもないよ。自民党だけを見れば、都市部の大物議員を中心にして30数名も議席を減らしてるんだぜ。それなのに執行部のおとがめもなく反省もなく、第二次森内閣は相変わらずの派閥均衡、年功序列人事。これじゃ自民党に未来はないよ。とにかく、党内から大きな声をあげて、改革の道に突破口を開かなきゃダメだよ。馳くんは森総理の地元石川県の県連会長だし、森派の一員として立場もあるだろうけれど、いっしょにやろうよ!』

 今思えば、この時に何かが動き始めていたのだろう。電話の主は塩崎恭久(愛媛一区)。今回、参議院から共に衆議院にクラ替えした仲間で、旧知の間柄。私はこうこたえた。『塩崎さんの言う通りだ。自民党は今、浮かれている場合ではない。今後の国政運営、来年の参議院選挙を考えれば、党内からこそ声をあげて党改革の道を歩まなければならない。俺は森総理を支え、国政を支える立場として、自分なりの信念を発信します。ただ、明日の両院議員総会でそこまで踏み込んで議論できるかどうかは、わからない。とにかく問題意識は共通していますから、いっしょに行動していきましょう。』

 塩崎さんは我が意を得たりとばかりに『よっしゃ、やろう!』と言って電話を切った。

 そして翌日の両院議員総会。はたして私の懸念通りになった。かろうじて河野太郎が発言して若手党改革派の面目は保ったが、海千山千の野中幹事長から『その件はうけたまわった。日を改めてみなさんのご意見をうかがいます。』と一言あっただけで両院議員総会は時間の都合で打ち切られてしまった。

 これではラチがあかない。若手が派閥横断で集まって会を作り、執行部に対して圧をかけて行こうという趣旨で結成されたのが『自民党の明日を創る会』である。

 しかし、私には心配事があった。

 党改革の意気込みやよし。されどその具体論と実現性は、となるといささか不安。意気込みばかりが先行し、具体的に何を、どう改革して行くかということになると、よっぽど腹を括ってやらないと、党内の基盤のもろいわれわれ若手議員はあっという間に執行部や派閥親分に切り崩されてしまうからである。

 例えば、明日を創る会の会合ではこんな意見が相次いだ。
 『選挙を闘った現執行部は、議席減の責任をとるべきだ!』
 『森総理の失言が自民党支持者からも反発を買った。総理失格だ!』
 『派閥なんて解消すべきだ。何の意味もない。もっと能力のある人を人事で配置すべきだ!』
 『もっと世代交替すべきだ。党内の活性化はそれしかない。人を替え、国民に期待を持ってもらう必要がある。“まず頭を替えろ!”森さんは辞めるべきだ。』
 『来年の参院選の公認候補は党内で予備選をやってから決定すべきだ。とりわけ都市部は若いモンじゃないと勝てない!』
 『公明党との選挙協力を見直すべきだ! 比例は公明党をお願しますと頭を下げていた自民党公認候補がいっぱいだ。言語道断! 自民党の独自性がなくなってしまう!』

 それぞれが勝手に発言しているだけで、議論の方向性はなかなか定まらない。これじゃまるでブレーキの壊れたダンブカー。みんな言いたいことだけ言って『じゃ、こうして行こう!』という建設的な前進論に踏み込んでいない。批判だけ得意な政治評論家になってしまっている。これでは一時の打ち上げ花火。

 私はひとしきりメンバーの意見を聞いた上でこう発言した。

 『まず、総選挙の総括。それも、選挙区ごとの票の出方や自民党候補の当落の事情を分析することからすべきだ。だって、都市部でも勝った自民党候補もいるし、農村部でも比例の自民党票を減らした地域もあって、一様に自民党敗北とばかりは言えないのだから。
 それから自公保連立については我々も説明不足。参議院自民党の過半数割れを考えれば、この連立与党の重要性を我々国会議員の方からこそ、有権者にアピールすべき。
 連立与党は国民生活の安定のために絶対必要だ、という姿勢を持つことが必要。その認識の上で、選挙は党と党の闘いであるということをいかに訴えて行くかにかかっているはずだ。そのための党内議論をこそ、執行部に求めて行くべきだ。そして、自民党改革は公明党や世論にリードさせるのではなく、中にいる我々こそがリードすべき。そのためにも、この創る会のメンバーはどんどんマスコミに出て、発言する機会を有効に活用すべき。
 また、この会はポストYKKを目指し、定期的に会合を持って意見を発信して行くべき。この会から来年の自民党総裁選に候補を送り込むだけの覚悟を持って行動すれば、執行部もYKKも我々を無視できなくなるはず。そして、当面はそごう問題やあっせん利得罪など、これはどうみてもおかしいという政策について勉強会を開き、野党より先に我々が事態収拾の道をつけるべき』

 私の発言は、素直に受け止められたようでもあり(馳はやっぱり森のスパイじゃないのか?)とも勘ぐられたようである。

 どう受け止められようと、私は、この会の役割りの大きさを自認しているからこそ、慎重に、かつ大胆に行動すべきだと思っている。

 自民党が国政の中枢に位置しているのは間違いない。だからこそ、謙虚に行動すべきであるし、権力の座にあぐらをかいていてはいけない。

 『自民党の明日を創る会』にまだまだ危うさはあるが、この若手のエネルギーは純粋であることに間違いない。要はナビゲーター次第だ。

 国政における政党の果たすべき役割とは何か? 国益とは何か? 組織とはどうあるべきか? を常に考えて行動していけば『自民党の明日を創る会』も日本の進路の一助となるはずである。 


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