馳浩の永田町一筆勝負42
愛すべき瞬間湯わかし器議員
 平成10年1月31日掲載 



 怒りが頂点に達しブチ切れる瞬間というのは誰しも一度や二度はあるだろう。その時に自分をコントロールできる人はまだしも、ブチ切れたままに糸の切れた凧のように怒りはじめる人の様子によってその人の人間性を推察することができる。

 永田町にも、瞬間湯わかし器のように怒鳴りはじめる人が何人かいる。その中でも、愛すべき一人の政治家について書いておこう。

 仮にA氏としておこう。自由民主党の代議士としては若手(年次が浅い)の部類に入るが、その風貌と怒った時の迫力では右に出る者がおらずひそかに恐れられている人物である。

 困ったことには、A氏が怒りはじめる理由が判然としないことと、ほんの数人の自民党幹部を除いては、全方位外交で誰に対してもその口撃が向けられることである。そして、怒鳴りはじめると歯止めが効かず、ダダダダダーッとたたみかけるところから『マシンガン』とあだ名されるほどのすごさである。

 私は党本部での朝8時からの部会(政策勉強会)でだいたい週に1回はA氏がマシンガンをぶっ放す光景を目にしている。最初は呆気にとられていた。最近は少々冷静にそれをながめている。

 A氏は、どうも一定の法則があるのではなく、心の琴線にちょっとでも触れることがあるとブチ切れるらしい。そしてブチ切れるとその感情は頂点に達したままであることがわかった。聞くところによると衆議院本会議では野党ばかりではなく自民党の議員や同じ派閥の仲間ともやりやっているらしい。このマシンガン口撃は時によって実力行使に近いところまで発展する。

 ケンカ相手を『バカヤロー』と怒鳴るところまでならいざ知らず、つかつかと歩み寄って胸ぐらをつかんだり、手を出そうとしたりの一歩手前まで行くらしい。恐れをなした、口撃を受けたことのある一年生議員の中からは『党紀委員会にかけて下さいよ』との声があがっているほどである。

 このA氏が愛される理由は、ブチ切れなければとっても低姿勢で謙虚な人柄であり、面倒見のよいところがあるからだ。

 さて、A氏の実父が最近お亡くなりになり、その葬儀式場での話し。

 故人をしのぶごあいさつの中で、A氏の母が『私はいつも亡き夫に「短気は損気」と申しておりました』とあいさつした時のこと。

 参列者の後ろの方から思わず『プッ』と吹き出し笑いが漏れ『亡き親父さんよりも血気盛んな息子のA氏に言うて聞かせてくれよ』とため息がもれたことである。A氏が巨体を縮めて顔を真っ赤にしたのは言うまでもない。

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