馳浩の永田町一筆勝負41
我々を“純真”にさせた
 宇宙飛行士 土井さんの存在感
平成10年1月24日掲載




 国会の前庭にはまだ、残雪がうず高く積もっている。それもホコリまみれで真ッ黒にうす汚れたままで。例年にない大雪の名残を感じさせる。見るともなしにながめていると日本経済のいまを象徴しているようで、背中がぶるっと震えてしまうのは私だけであろうか。

 国会議事堂の正面玄関から視線を上に移すと、三階のあたりに灯かりがついている。この部屋は常任委員長室。この部屋で宇宙を語る機会に恵まれた。

 宇宙飛行士の土井隆雄さんが国会を表敬訪問され、衆議院の科学技術委員会と参議院の文教・科学委員会の各党代表者がこの常任委員長室に集まって出迎え、懇談をした。

 この部屋は桃山時代の様式を取り入れた内装だそうで、国会内を見慣れている我々の目から見ても重々しく古色蒼然としたたたずまい。そんなおごそかな雰囲気の中で、日本経済の冷え込みをしばし横に置いて、夢のある宇宙の話をできたのだから、これも国会議員の役得。いくつかの質疑応答を記しておく。

 『宇宙ではスピード感はあるのですか。テレビ映像ではストップモーションのように見えたのですが?』

 『一秒間に7キロの移動はしています。けれど、全くスピード感はありません』

 『衛星を手で回収する場面を見ましたが、衝撃はないのですか?』

 『時速20〜30キロの自動車をストップさせるような感じです』

 『宇宙から見る月や太陽はどんな感じですか?』

 『月は地球上から肉眼で見るのとさして変わりません。太陽は地球から見るよりもまぶしくて正視できず、白く輝いています』

 『地球上の核廃棄物を宇宙空間で処理できませんかねぇ?』

 『実現可能かどうかはともかく、太陽に打ち込んで太陽のエネルギーで燃やして処理する方法があると思います。ただその時は核廃棄物を太陽にぶち込むためのスペースシャトルは今の数倍の性能が必要です』

 『今後の夢は何ですか?』

 『月面に上陸することと、宇宙ステーションの建設に参加することです』

 『帰還する時、大気圏に突入する際はショックがありましたか?』

 『この部屋のソファに座る時のような、ふんわりと包まれるような感じです』

 いささか国会議員らしくない子どものような質問もしてしまったが、土井さんの存在感は我々をそれだけ純真にさせる気高さがあった。『土井さんこそ宇宙人のように神秘だね』と誰かがつぶやいた一言が印象的だった。 

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