三塚大蔵大臣の
“目の上のこぶ”

<5月31日デイリースポーツ掲載>


 通常国会も残り一カ月を切った5月29日の朝。参議院自民党の国会対策委員会(別名・国対)の会議中に、異例にも三塚博大蔵大臣が姿を見せた。

 大臣の中の大臣とも称される(つまり国家予算を編成する裁量権を持つことから一目置かれている)大蔵大臣が、何故にこの時期にわざわざ参議院に出かけてきて、一年生議員の集まりである国対にあいさつにやって来たのか。その答えは、東北人らしい、仙台なまりの朴訥な一言のあいさつに集約されていた。

 「参議院での日程が大変過密になっている最中、万感の思いを込めて、お願い申し上げます」

 この「万感」のところで力が込められていたので、国対委員のメンバーから思わず吹き出し笑いがもれたほどである。
 今国会の重要法案と呼ばれるものは次の通りである。

  • 脳死を人の死と法で規定し、臓器移植の可能性を広げる「臓器移植法案」
  • 国民に自己負担より一層求める「医療保険法改正案」
  • 40歳以上の国民に強制的に加入を求める「介護保険制度創設法案」
  • 日本銀行の独立性を高める「日銀法改正案」
  • 住専問題の反省を受けて、大蔵省から検査監督部門を独立させる「金融監督庁設置法案」
  • サッカーくじを導入し、スポーツ振興予算を確保するための「スポーツ振興投票制度法案」

 ・・・・ざっと列挙しただけでも、これだけの法案をわずか残り13日間の審議日程の中で、委員会審議、採決、本会議採決→可決成立ともっていかなれけばならないのだ。参議院第一党とはいえ、可半数に12議席も足りない自民党としては、まず社民党、さきがけとの協力関係に配慮しなければならず、綱渡りの議会運営が強いられている。

 にもかかわらず、参議院自民党幹事長の村上正邦氏や上杉光弘国対委員長は、「参議院の独自性」と「社さとの協調姿勢」を理由に、ちょっと法案をドコドコ挙げて行くことには慎重なのである。この「社さ」にソッポを向かれては法案が成立しない現状の中で、石橋を叩きながら渡っているのが参議院の運営の難しいところなのである。何せ衆議院の補完抑制をする良識ある参議院なのだから。

 そこで、三塚大臣は、日銀法改正や金融監督庁設置法案の所轄官庁の大臣として「万感」(つまり、早く法律通してちょーだいよ、との本音)を込めて、それを伝えるために国対委員会の部屋まで足を運んだのである。

 派閥のリーダーであり、政局や行財政改革のキーマンである三塚大蔵大臣にしても、参議院の執行部は目の上のたんこぶなわけである。


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